2月28日のハノイ米朝首脳会談でトランプ大統領は北朝鮮の金正恩に、核・ミサイルと大量破壊兵器(WMD)の完全な廃棄、全ての核兵器と核燃料の引き渡しを求めたという。ロイター通信の報道が正しければ、最後通告に等しい内容だ。
正恩氏は要求を蹴ったが、米国の包囲網は狭まっている。中国は対米貿易摩擦で致命的なダメージを被る中、米国の顔色を伺って、正恩氏に航空機はもとより高速鉄道すら便宜供与を控えた。正恩氏は最近、ロシアに助けを求めようとしているが、経済的にも軍事的にも米国に対抗する余力がない。
米朝の仲介役を自任する文在寅韓国大統領は11日の米韓首脳会談で対北制裁緩和への道を開きたいところだが、国際社会が一丸となっている中では限界がある。人権弾圧と食糧難に直面する北朝鮮住民を救出する近道は長期独裁政権を除去するしかない。
米国による転覆工作は既にスタートしたようだ。
去る3月22日、駐スペイン北朝鮮大使館が在米韓国人らに襲撃され、複数のパソコン、USB、ハードディスクと、携帯1台が奪われた。4日後に犯行声明を出したのは、3月1日に臨時政府を発表したばかりの秘密組織「自由朝鮮」(前身は、脱北者救出団体の「千里馬民防衛」)。リーダーはワシントンに本部をおく北朝鮮人権団体「LINK」の共同代表だ。米政府は否認するが、連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の関与説も出ている。
アレン・ダレス元CIA長長官は1964年、英BBC放送とのインタビューで「米CIAの海外活動で一番成功したのがこの革命(61年5月16日、朴正煕少将らによる軍事クーデター)であった」と述べている。ポンペオ国務長官もCIA長官の時、「金正恩がいつか、交通事故で死亡しても私は何も言えない」と発言したことがある。
79年に、アフガニスタンを侵攻したソ連軍は80年代、CIAが支援した武装勢力のゲリラ戦に巻き込まれ、撤退せざるを得なかった。その後、ソ連は崩壊し15ヶ国が分離・独立した。当時、レーガン米大統領は宇宙戦争を想定した戦略防衛構想(SDI)を推進し旧ソ連が軍備競争で国力を衰退させるよう誘導した。
トランプ氏は昨年末、宇宙統合軍の創設を指示したが、多くの兆候は中国が米国の次の分離・独立の標的であることを示している。結局、中国の覇権を挫折させる入口が北朝鮮の非核化であるわけだ。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員)
※本稿は『世界日報』(4月5日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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