人は完全ではないので時には間違いを犯す。だから、過ちを犯した時、どのように対応するかで、その人の人格や度量が分かるというものだ。人だけではない。国も同じだろう。5000年の悠久な歴史を誇る中国もそうだし、ユダヤ民族の歴史も過ちが繰り返された、といっても過言ではないだろう。
日本の近代史も例外ではない。最近では、隣国の韓国で「正しい歴史認識」から「積弊清算」の掛け声まで、歴史の見直し作業が進められている。韓国の場合、歴史の過ちを再考することで満足せず、それを書き換えようと腐心し、新たな過ちを犯している、といった感がする。
ところで、韓国外務省(外交部)が批判されている。対北政策や対米政策の過ちが原因ではない。今回は幸い、日本との問題でもない。「過ち」というほどの大げさな内容ではなく、基本的ミスといった方が当たっているケースだ。
①昨年11月、文大統領のチェコ訪問の際、大統領府の公式ツイッターで「チェコ」ではなく、既に存在しない「チェコスロバキア」という国名を記載
②今年3月の報道資料で外務省は「バルト3国」と書くべきところを「バルカン」と記入した。バルト3国はエストニア、リトアニア、ラトビアの3国。バルカンはセルビア、クロアチア、マケドニアなどの地域を意味する
③文大統領は国賓としてマレーシアを訪問、マハテイール首相との共同記者会見でマレーシア語で挨拶する予定だったが、外務省が準備した文書はインドネシア語で書かれていた(3月13日)
④韓国とスペイン両国外務次官会談で掲揚された太極旗がしわだらけだった(4月4日)
河野太郎外相が率いる日本外務省で上記のような基本的ミスが発生した場合、関係者は謝罪表明だけでは済まないかもしれない。最悪の場合、関係者は更迭され、河野外相は記者会見で頭を下げなければならなくなる。実際、韓国の康京和外相は職員のミスでこれまで4度、謝罪表明している。
④の場合、「朝鮮日報」日本語版(4月5日)からその事情と背景を説明する。日本海上自衛艦の「旭日旗」に直ぐにいちゃもんをつける韓国だが、自国の国旗がしわだらけで、国の品格を自ら落としてしまった、というハプニングだ。
「この日の会談中、儀典用の大型太極旗がしわだらけの状態で2時間近くにわたり、掲揚されていた。韓国外務省の趙顕第一次官はしわだらけの太極旗の前でスペインのフェルナンド・バレンスエラ外務次官と記念写真を撮影した。長期にわたり折り曲げて保管されていた太極旗に多数のしわが残っていたことを担当者が事前に確認しなかったのが原因。掲揚直前に事態を把握した複数の外務省職員が慌てて手でしわを伸ばそうとしたが無理だった」
康京和外相は「ミスは一切許されないので、職員は使命感と職業意識をもって業務に臨んでほしい」と叱咤激励したが、孔魯明元外相などは「前例がないことで、常識以下だ」と呆れかえっている。
当方は韓国外務省関係者のミスをかばう気はないが、イージー・ミスの背後には深い意味が隠されていると感じている。韓国では文在寅大統領を中心とした大統領府(青瓦台)が外務省を無視して対北政策、反日外交を展開させてきた。時には外務省に連絡なくして決定された外交事案すらあった。だから、外務省幹部の中には大統領府に対し恨みと不満が鬱積しているはずだ。換言すれば、外務省関係者の大統領府へのサボタージュ(Sabotage)が進行していると推測できるわけだ。
その理由は外務省関係者の犯したミスは初歩的なものであり、ひょっとしたら笑って済ませる程度の被害のものだからだ。国運や国益を大きく傷つけるような大ミスではない。国運、国益に反する政策を実施しているのは外務省ではなく、文大統領を中心とした大統領府だ、という告発が単純なミスの中に隠されているメッセージではないか。これが韓国外務省の単純ミス連発の背景にある「深層心理」だ。
反日批判で頭にきているのは日本国民だけではない。韓国内の保守層にも大統領府の反日政策が韓国の国益を害していると考えている人が少なからずいる。国民経済が低迷する中、文大統領の頭の中が北朝鮮との融和政策だけで占められている現状に対し、野党、保守層、メディアは文政権への批判を強めてきた。この時、外務省職員の単純なミスが頻繁に発生するのは偶然ではない。文政権への外務省のサボタージュと受け取るべきだろう。韓国軍のクーデターが勃発する前には、政府内部からサボタージュが起きる。歴史はそのことを教えている(「北朝鮮に傾斜しすぎ?韓国軍によるクーデターは起きるか」2019年2月1日参考)。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月6日の記事に一部加筆。