デジタルビジネスイノベーションセンター(DBIC)とTIE JAPANが共催するプログラム「デジタルと民間の力でインドのGDPを日本の2倍に拡大する」に参加しました。講師は、モハンダス・パイ(Aarin Capital共同創設者)、インド国内の経済環境の説明が前半、そして後半は「India Stack」に関する話でした。
国内経済指標については正直、それほどの関心を持ちませんでしたが、「India Stack」の話は、内閣府マイナンバー担当大臣補佐官を務めていた僕には、衝撃的な話だったのです。
India Stackの設計思想は「モバイルファースト」です。「デジタルファースト」ではなく「モバイルファースト」であることから始まるのです。マイナンバーカードやパソコンを利用してのUIではなく、スマートフォンを中心としたもの、もちろん将来は、異なるデバイスかもしれません。India Stackは、特定の企業が構築したものではなく、政府の呼びかけに呼応したエンジニアの有志が作り上げたもので、オープンソースとして、誰もが自由にこのプラットフォーム使えることになっています。開発費用は2000万ドルということです。
India Stackは、4つのレイヤーに分かれています。PRESENCE-LESS LAYERの「Aadhaar」は、日本で言えばマイナンバー部分。PAPERLESS LAYERの「e-KYC」、「e-sign」、「Digital Locker」は、公的個人認証、デジタル署名、マイナポータルです。また、デジタルロッカーは政府が認証した組織が使用できることになっています。CASHLESS LAYERは、電子マネーや送金等のキャッシュレス経済に対応する部分。CONSENT LAYERの「Open Personal Data Store」は、個人情報の管理部分で、本人同意が無いとプラットフォーマーが使えないように、情報管理を個人に帰属させている部分です。
データの管理とセキュリティは、司法省管轄の生体認証庁が生体認証データベースを管理、国家決済機構が決済データを管理しています。個人情報は100%守れるものではないということを前提としているが、国民は利便性を求めて、India Stackを利用している。他国からの評価もあり、このIndia Stackのシステムを今後10か国が利用することになっているといいます。
手続きのデジタル化、決済のデジタル化、ネット上でのKYC。そしてデジタル処理されたデータを活用した経済モデルをモバイルファーストで作り上げているインドは、正にデジタル経済大国に向かっています。そして、India Stackを提供することによって、そのモデルを他国に広げ、データ経済圏、そしてインド経済圏をデジタルでつなげていく事を考えているのでしょう。
内閣府マイナンバー担当大臣補佐官の時代に、日本のマイナンバー制度を海外に輸出していきたいと思い、スリランカの大統領に直談判に行ったこともあります。便利なシステムを単に日本だけで使うのではなく、政府が開発したものであっても海外に輸出し、データの利活用や、安心安全を共有化していくことは、日本経済にとって大切なことと考えたからです。
残念ながら、ソフトウエアにODAは使うことが出来ない、システムベンダーに海外でシステムを構築できる人材がいない等、幾重ものハードルがあり、実現することは出来ませんでした。
開発した政府のシステムを日本国内だけで使用することを前提にしているため、許諾管理が出来ていない、金額が高い、BPR無しのシステム構築により汎用化されていない・・・。考え方を変えていかないとインドを始めとするデジタル経済にシフトしている国と競争できなくなってしまいます。
やらなくてはいけないことを出来ない理由を列挙する事ではなく、どうしたら早期に出来るのか。先ずはやってみるしかないのです。
関連記事:キャッシュレス社会、最初に実現するのはインドか(Forbes JAPAN)
編集部より:この記事は多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授、福田峰之氏(元内閣府副大臣、前衆議院議員)のブログ 2019年4月8日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。