慰安婦案件のユネスコ記憶遺産登録阻止へ、やるべきこと

4月9日の韓国東亜日報は「ユネスコ『日本、韓国と対話を』」という記事を載せた。読むと「慰安婦資料の『世界の記憶(記憶遺産)』」の登録延期と関連して、(ユネスコが)1年以上韓国との対話を避けている日本に対話に出るよう促すメッセージを送る」と書いてある。「ユネスコ関係者が先月下旬、(韓国の)政府当局者と会って」そのように述べたと韓国の外交筋から東亜記者が聞いたらしい。

少女像(Wikipedia:編集部)

ユネスコ関係者も韓国政府の当局者も外交筋も誰か判らない迂遠な話である上、「1年以上韓国との対話を避けている日本」というのも事実と違う。疑義がありながら2015年に南京事件が登録されたことで記憶遺産の改革が求められ、アズレ新委員長が昨年の春と秋の二度改革案を出し目下はその審議中だ。改革案が纏まるまで申請を受けないとされているため、申請再会は2020年とみられている。

先般筆者が投稿した「日韓に葛藤克服を要請」の中央日報の記事といい、どうも韓国は新聞といい大統領といい事実と異なる我田引水の解釈が過ぎる。米国の上院外交委員長にしろユネスコの新任委員長にしろ、そうあからさまにどちらかの方を持つような発言をする立場ではなかろうに。

日中韓の民間団体が申請しようとしている慰安婦資料は実に2744件という膨大な数らしい。それを審査するアジア太平洋小委員会は10人。うち5人が中国人と韓国人で日本人はゼロという。これで公正な審査が望めるか。日本もボーっとしている場合じゃない。懸念表明は当たり前だ。

そこで記憶遺産の手続きの話になる。筆者は2015年の南京事件登録の時にこれを少し調べたので、それに絡めて問題点を考察する。

南京事件の登録内容は次の11項目だった。

  1. 国際安全区の金陵女子文理学院の宿舎管理員、程瑞芳の日記
  2. 米国人のジョン・マギー牧師の16ミリ撮影機とそのオリジナルフィルム
  3. 南京市民の羅瑾が死の危険を冒して保存した、旧日本軍撮影の民間人虐殺や女性へのいたずら、強姦の写真16枚
  4. 中国人、呉旋が南京臨時(政府)参議院宛てに送った旧日本軍の暴行写真
  5. 南京軍事法廷が日本軍の戦犯・谷寿夫に下した判決文の正本
  6. 南京軍事法廷での米国人、ベイツの証言
  7. 南京大虐殺の生存者、陸李秀英の証言
  8. 南京市臨時(政府)参議院の南京大虐殺案件における敵の犯罪行為調査委員会の調査表
  9. 南京軍事法廷が調査した犯罪の証拠
  10. 南京大虐殺の案件に対する市民の上申書
  11. 外国人日記「南京占領−目撃者の記述」

次にユネスコ記憶遺産のサイトで手続きの要点を見てみる。2015年以降改訂されていないと思う。(和訳と太字は筆者)

1.2  記憶遺産の目的

1.2.1 記憶遺産プログラムには3つの主な目的がある

(a)  最も適切な技術を用いて世界の文書記録資料文化遺産の保存を手助けすること・・

(b)   ドキュメンタリー遺産への普遍的なアクセスを支援すること・・

(c)   ドキュメンタリー遺産の存在と重要性に対する世界的な認識を広げること・・

2.3  ビジョンと使命

2.3.1 よって、記憶遺産プログラムのビジョンは、世界ドキュメンタリー遺産が全て文化的な慣習と実用性を十分認識して完全に保存され、全てのために保護されるべきであり、支障なく全てに恒久的にアクセスできる必要がある、というものである。

2.3.2 記憶遺産プログラムの使命は、世界ドキュメンタリー遺産の認識と保護を強化し、それらに普遍的かつ永続的にアクセスできるようにすることである。 (中略)

4.8  登録からの除去

4.8.1 ドキュメンタリー遺産は、それの表記が基盤とした選考基準にもはや適合しない程度にそれが悪化した場合、またはその誠実性が損なわれた場合には、登録から除去することができる。新しい情報が当該登録の再評価を惹起し、その非適格性が実証された場合に登録除去が正当化される。(中略)

ポイントとなる箇所だけを抜粋した。南京事件資料の登録に関して筆者が大いに異様に思うのは、登録された資料の全容が未だに開示されていないことだ。目的に何と書いてあるかといえば、遺産への普遍的なアクセスを支援すること、そして遺産の存在と重要性に対する世界的な認識を広げること、だ。

使命にも支障なく全てに恒久的にアクセスできる必要があると書いてあるではないか。それなのに登録から3年以上経っても未だに資料の全貌が判らないとはどういうことか。記憶遺産の目的と使命を大きく逸脱している。が、そのことに日本政府が異議を唱えたという話は、管見の限りだが聞いたことがない。

これが登録された時、当時43億円程だった分担金と拠出金を停止せよ、との世論が政府に対して巻き起こった。それも良いかも知れぬ。が、先ずは正攻法で記憶遺産の規約に則って敢然と抗議することの方が日本らしい。なぜ放って置くのか。明日にでも抗議してもらいたい。

そして今度の慰安婦問題、来年には改革を終えて申請に向けて動くだろう。その前に今からしておかねばならないことがいくつもある。

先ず一つ目は1996年のクマラスワミ報告の抹殺だ。2014年4月に産経がすっぱ抜いた外務省の幻の反論を復活させるのだ。朝日新聞が誤報を認めた吉田清治の詐話の件を盛り込めばより説得力が増す。

クマラスワミが面談した数名の元慰安婦の話も、うち2名の話に秘部を焼かれただの仲間が切り刻まれて殺されだのとう話が出てくる。残忍さを強調したつもりだろう。が、そんな風に話を盛れば盛るほどほど真実味がなくなる。貴重な戦場のパートナーだし、そんなことをすれば軍法会議で重罪だ。

次は2007年6月の米下院決議を取り下げさせることだ。この決議はクマラスワミ報告に多くを依拠しているので吉田詐話の孫引きに過ぎない。対象となる主なWhereas Clause(前提文)は次のようだ。

日本政府は、1930年代から第二次世界大戦を通してその植民地およびアジアと太平洋諸島の戦時占領中、皇軍への性的奉仕を唯一の目的として、Ianfuまたは「慰安婦」として世界に知られるようになった若い女性の獲得を正式に命じていたので…

残酷さと規模の点で前例がないと見做されている日本政府による強制的軍隊売春の「慰安婦」制度は、輪姦、強制中絶、屈辱および性的暴力を含み、身体障碍、死亡、または最終的に自殺を招いた20世紀における人身売買の最大事案の一つであるので…

そしてその前提を受けての決議は以下だ。

  1. 1930年代から第二次世界大戦を通して日本の植民地およびアジアと太平洋諸島の戦時占領中の、世界に「慰安婦」として世界に知られている、皇軍による若い女性に性的奴隷になるのを強制について、日本政府がはっきりと明確に歴史的責任を正式に認めて謝罪し、受け入れるべきである。
  1. もし日本の首相が公式にそのような謝罪を声明として発表するなら、これまでの声明の誠意と立ち位置についての繰り返し質問されるのを解決する助けになろう。
  1. 日本皇軍のための「慰安婦」の性奴隷化と人身売買は決して起こらなかったという主張を明確かつ公に反論するべきである。そして
  1. 「慰安婦」に関する国際社会の勧告に従いながら、この恐ろしい犯罪について現在および将来の世代を教育するべきである。

読むと腹が立つよりむしろ悲しくなる。クマラスワミ報告と下院決議がこの問題に大きな影響を及ぼしていることは明らかだ。これらを葬ればマグロウヒル社の歴史教科書の慰安婦記述も変えざるを得なくなるだろうし、グレンデール市も少女像の撤去に動く可能性が高まる。

直ぐにでも、上記決議3.に則って明確かつ公に反論し、この馬鹿げた決議の取り下げを米国政府に対し申し入れるよう日本政府に要望して止まない。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。