ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)のHPを開いて驚いた。いきなり「Fighting back against the silent Killers in China」という大文字が飛び込んできたのだ。それを初めて見たとき、国連専門機関のHPではなく、どこかの政治サイトかと感じたほどだ。
内容は、土壌汚染、水質汚染、大気汚染に悩む中国がここにきて残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の重要さに目覚めて、国際機関の支援を受けてPOPs対策に乗り出してきたというのだ。世界2位の経済大国にのし上がった中国の無謀な環境破壊に悩んできた隣国にとっては朗報かもしれない。
ストックホルム条約は2001年5月に採択され、04年5月に発効した。残留性有機汚染物質は毒性が強く、分解が困難で長期間、人体や環境に悪影響を与える化学物質だ。ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェ二ルやDDTだ。DDTは有機塩素系の農薬でPOPsの規制対象物質だ。日本では1971年に使用が禁止されたが、同条約に加盟していない北朝鮮はまだDDTを使用しているという。
POPsの怖さは、悪影響が一国だけに留まらず、地球全土に拡大することだ。平壌がDDTの使用を中止しなければ、土壌は汚染し、その影響は時間の経過と共に他国に拡大する。北朝鮮のPOPsは偏西風やグラスホッパー現象などを通じて日本にも影響を与える。日本で久しく使用されていないPOPsが国内の土壌から検出されたということが度々起きる理由だ。その意味で、POPsは国際規制が不可欠となるわけだ。
急速に経済発展する中国の環境汚染問題は最近大きく報道され、その影響はアジア近隣諸国だけではなく、地球規模に及ぶと指摘され出した。大気汚染から水質汚染、土壌汚染まで、その汚染影響は計り知れない。中国共産党政権は「中国製品2025」戦略を公表し、習近平国家主席の野望に基づき、ITやロボット、宇宙開発などの先端技術で世界を制覇する目標を掲げている一方、その環境保護分野では中国は後進国に留まってきた。その好対照は不気味なほどだ。
北朝鮮国内のPOPs汚染はひどいため、UNIDOが過去、「モントリオール・プロジェクト」として技術支援してきたが、世界第2の経済大国の中国が北朝鮮と同様、POPs対策、技術支援を受けるためにUNIDOなどの国連専門機関の支援を要請するということは、中国共産党政権が過去、経済発展に集中し、環境保護などの問題をなおざりにしてきたことを端的に物語っている。
例えば、世界都市別汚染度ランキングによると、韓国の微小粒子物質(PM2.5)による大気汚染が世界で最悪というニュースが流れたばかりだが、韓国側は、中国の工場から出た環境汚染物質や黄砂が偏西風に乗って韓国に飛来してきたと主張。それに対し、中国側は「北京の大気汚染はソウルのように悪くはない」として反論するなど、中韓の間で責任の擦り付け合いを展開している有様だ。
中国は、地球環境ファシリテイ(GEF)、中国人の李勇氏が事務局長を務めるUNIDO、中国環境保護省対外経済協力との共同基金の支援を受けて“サイレント・キラー”と呼ばれるPOPs対策に取り組み、潜在的な健康問題やリスクを回避するためにストックホルム条約を履行する一方、他国からPOPs対策の教訓を学んでいくという。遅すぎた感はするが、何もしないで汚染物質をばら撒くよりはいい。
UNIDOのHPによると、中国湖南省の南天工業会社の敷地で汚染した土壌の浄化を実施中だ。そこでは2003年に閉鎖するまでDDDTなどを大規模に生産していた。同地域の土壌浄化で1000万人以上の地域住民がその恩恵を受けるという。
中国の人口、その経済活動は巨大だ。中国がもたらす環境汚染は地球を破壊しかねないほどの規模だ。中国共産党政権は「中国製品2025」戦略の代わりに、「青空回復2025」計画を掲げ、国を挙げて「環境保護大国」入りを目指してほしいものだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月14日の記事に一部加筆。