萩生田氏の重要発言はインターネットテレビから

田村 和広

※以下の論考は執筆者個人の意見であり、アゴラ編集部の見解を代表するものではありません。


萩生田幹事長代行の発言経緯

4月18日午前8時30分、萩生田光一自民党幹事長代行はDHCテレビのインターネット番組「虎ノ門ニュース」に出演した。これに先立ち番組コメンテーターの有本香氏は、SNSを通じて萩生田氏に質問したいテーマを視聴者から集約していた。

YouTube
作成した動画を友だち、家族、世界中の人たちと共有

番組配信当日、有本氏は視聴者の関心の高いテーマとして、消費税増税に関する質問を行った。これに対し萩生田氏は、「(中略)ここへきて日銀短観を含めて、(景気が)ちょっと落ちている。次の6月はよく見ないといけない。本当にこの先危ないぞというところが見えてきたら、崖に向かってみんなを連れて行くわけにはいかない。そこはまた違う展開もあると思う」と表明し、景気悪化の兆しを前提として増税延期の可能性がゼロではないとの見方を示した。

加えて有本氏は「解散総選挙(もあるのか)?」と質問したが、萩生田幹事長代行は「ダブル選挙は日程的に難しい」と述べるに留めた。

この重要情報について既存メディアは番組名を伏せて引用報道

これらの一連の発言には、諸情勢を考慮すれば確かに一級のニュースバリューがある。その証拠に、番組配信直後から既存メディアはインターネット上で次々と虎ノ門ニュースから発言要旨を引用して速報した。また地上波テレビという伝統的な媒体においてもNHKは発言要旨を報道していたのを実際に視聴した。そこでの萩生田氏の映像は最近自社で撮影したと思われる別の資料映像だった。

しかし各媒体ともニュースソースに関しては「インターネット番組」と表現するに留め、「DHCテレビ」または「虎ノ門ニュース」という具体的な番組名を出したメディアは殆どなかった。番組名を出していたのは、直接競合がなさそうな一部の新聞においてのみだった。番組名を一様に伏せる現象には、番組への嫉妬、自分たちの存在意義の相対的低下などの心理的な要因もあろう。

だが、より本質的には、引用番組名を公表することは「自分たちが囲い込んできた伝統的な視聴者に、より真実に近い、面白いインターネット番組の存在を告知すること」にほかならず、いわば「自傷行為」になってしまうことへの懸念又は恐怖心からであろうと推測する。

メディアの存在価値が逆転していることを象徴

この一連の現象が象徴していることは、「地上波テレビ・新聞など既存メディアよりも、インターネットテレビやSNSなどの新興メディアの方が重要情報を引き出し配信し始めている」ということである。もちろん一つの事柄で全てそうだということはできないが、徐々に移行している萌芽とはみなせるだろう。インターネットメディアをじっくり吟味すると、既存メディアにない構造的な特徴を背景として今回の事態が出現したことがわかる。ではその構造的な特徴とは何か。

特徴1:信頼関係を構築

番組内での紹介によると、萩生田氏は虎ノ門ニュースにはこれまでに5回出演している。重厚なビジュアルと親しみやすい話し方の組み合わせは番組視聴者の支持につながっており、彼は「ハギー」という愛称で呼ばれている。また虎ノ門ニュースは通常リアルタイムの生放送をしており、コメントの切り取りや編集を全くしないので伝えたいことを十分に話せる番組である。そのため過去には複数の議員が出演しており、安倍総理さえも出演している(さすがに録画編集であったが)。要するに、番組を介して一般視聴者と権力や影響力を持つ出演者が、双方向で独自の信頼関係を構築している。

特徴2:事前に質問を募集

今回の出演に先立って、有本香氏は、その2日程前にはツイッター上で萩生田幹事長代行の出演を予告し視聴者側の質問を募集していた。有本氏は、数々の著作や日々配信される紙媒体のコラム欄を持ち、ツイッターのフォロワー数に至っては196,006人(19日現在)という影響力の強いジャーナリストである。推測だが数多くの質問が集まったことであろう。

「有本氏のツイッターを日々チェックしている人」というカテゴリーに限られるとはいえ、視聴者の生の疑問を収集しており、有本氏が萩生田幹事長代行にぶつける質問行為は、まさに国民の声(の一部)だ。普段「国民の代表」を自称する新聞記者も多いが、週刊誌の作り話を元に自身の主張を官房長官に聞かせるような一部新聞記者を持ち出すまでもなく、有本氏こそ「国民代表」と言えるだろう。

特徴3:コメントを切り取らない

DHCが送り出す番組に共通した特徴だが、コメントの切り取りは少ない。特に虎ノ門ニュースは「生放送」(:リアルタイム配信)しており、切り取りも編集も行わない。そのため時に一部出演者の暴走ぎみな発言や冗長な説明も無くはないが、全体として発言者も視聴者も(主張の是非は別として)納得感の高い番組作りとなっている。

また、聞き逃しても一定期間は何度でも視聴できるのでコメントを文字に起こすことも容易であり敢えて録画する必要は低い。これらの特徴から、当該番組は、出演者も正々堂々と持論を展開することを可能にしている。

特徴4:建設的なやり取りをしている

国会討論も必要最低限度視聴するが、議論の中身が低級過ぎて苦痛である。特に野党側の質問が殆ど人格攻撃に終始し、国民代表としての責任を果たしていない。結局日本のために何が重要であるのかという議論は殆ど行われず、与党・政府側の国家運営の弛緩も招いている気配がある。

それに比べると、今回ジャーナリストの有本氏と自民党幹事長代行の萩生田氏の間で、信頼関係に基づく真剣な質疑が展開されたが、こちらの方がよほど国益についての本質を突いたやりとりとなっている。そして萩生田氏も慎重な物言いながらも「私は党の幹部なので『本心を言え』と言われても困るのですけど」と苦笑しながらも、その表情から言外のサインで副次的な情報までも発信している。

このような建設的な議論ができる環境こそ、今回萩生田氏が重要情報を配信するメディアとして虎ノ門ニュースを選んだ理由の一つだろう。

既存メディアは「ネトウヨ番組」と印象付けるが

虎ノ門ニュースは、既存メディアに屈しない番組作りのせいか、新聞などからは「ネトウヨ番組」という印象操作が常になされる。こちらが恥ずかしくなるので具体的な記述は控えるが、本当に見苦しく偏った印象操作をしている。

しかし18日の配信においても、萩生田氏が「共産党の人からも『そんなにお金を使って対策するなら増税をやらなければいいじゃないか』と言われる」と言ったところ、有本氏は「それは共産党の人の言うことが割合まとも」と意見表明している。有本氏をはじめとして当該番組に出演するコメンテーターの多くは、現状のタイミングでの消費増税に反対しており、従来から一貫して政府・与党に対して迎合することなく意見している。これは一例に過ぎないが、いわば「是は是非は非」を実地に遂行している数少ない媒体だと言える。

DHCテレビは、「言論統制」に屈しない番組

ところで、DHCが配信する番組と言えば、「沖縄米軍基地問題」の取り扱いをめぐり地上波から引き揚げた過去を持つ。事実としては、番組内容についてBPOが放送倫理法違反と指摘し、DHC側は地上波への番組配信をやめたということなのだが、あたかも打ち切られたかのような印象の報道がなされた。

しかしDHC側は、それに屈せず検証番組も配信し、更に2018年5月には吉田嘉明DHC会長自身が反論をインターネット上の言論サイトに配信した。実際にその検証番組も視聴し会長の反論も拝読したが、既存メディアの扱いの方が偏向しているように感じた(ただし個人的な印象)。

まとめると、DHCテレビとは、いわゆる「閉ざされた言論空間」に果敢に穴を開けようとしている媒体と見なして良いだろう。

メディアの進化で、日本が真の民主主義に近づくか

かつて新聞によって人々は煽動された。ラジオとテレビによって政治家も動かされた。しかし今や米国大統領がSNSで直接コメントを発信し人々が直接反応する。偏向報道は即座に打ち消され、「第四の権力」を思いのままに行使し「腐敗」さえしてきた伝統的なメディアが墜落中である。

日本においては、大きな振り子が一方の極に達し逆方向に振れ始めたが、誰にも止められないだろう。これらの現象は、日本が、真の民主主義に近づく兆しと考えたい。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。