乗客を確保する為の過酷な戦いと燃料の負担から、アイスランドの首都レイキャビクに本社を構える格安航空「WOW air」が3月28日、営業を停止して倒産したことは日本でも報道された。日本で突然の倒産と報道されていたようであるが、倒産の危機にあったのは昨年からであった。
昨年末に1億6000万ユーロ(208億円)の負債を抱えて経営の存続の為に新たに資金源を探していたところであった。昨年11月に米国のFrontier Airlinesなど格安航空を対象に投資をしているファンドIndigo PartnersがWOW に資金投入すると噂されていたが実現されなかった。
また、Icelandairとの交渉も進められていたが、吸収合併するための条件をWOWが満たすことができなくなって合意に至らなくなっていた。というのはWOWは資金難から一部機材を返却せねばならなくなったからである。
Islandairとの交渉は2017年にWOWが2200万ドル(24億円)の赤字を計上した時点から進められていたという。
(参照:lavanguardia.com:preferente.com)
WOWはスクリ・モゲンセン(Skúli Mogensen)によって2011年に創設された航空会社である。彼はアイスランドで2011、2016、2017の3度、優秀ビジネスマン表彰を受けた人物だ。その前には宅急便の会社を経営して2008年にNokiaにそれを売却。また、携帯電話の会社も誕生させ、それをVodafoneに売却している。アイスランドが金融危機に見舞われた時に投資銀行MP Bnakの再建にも貢献した。そのような企業家としての実績が評価されて、2017年には優秀マーケテイングマン表彰も受けた。
航空業界の熾烈な戦いを目のあたりにしている彼は、
「航空会社は乗客から料金を取る代わりに、飛ぶための料金を乗客に支払う。その代わりに航空会社は乗客が座席を選ぶのに料金を徴収する。更に、乗客は事前予約料、機内での食事代、ホテル、レストラン、レンタカーその他旅行に関係したものなどと提携して乗客がその料金を支払う。それが航空チケットの代金を上回ったものになる」
「航空チケットの料金は段々と安くなり、マイナス料金にまでなってしまう。だから乗客を獲得するためには航空会社が乗客を確保するための費用を負担するようになる」
と語っていた。彼にとって魅力なのは彼の飛行機の機内が常に乗客で十分に満たされているということであった。
(参照:lavanguardia.com)
彼の格安航空の経営哲学の根底には上述したような考えがあるのである。そして、WOWは創業から10年余りIslandairと伴にアイスランドの観光業の発展に貢献するのである。昨年のWOWの乗客は350万人を記録している。(参照:infobae.com)
彼の経営哲学の延長線上で、2017年には大西洋を横断して北米へのフライトの料金を61ドルで提供し、48ドルまで料金を下げたこともあるという。即ち、大西洋を横断する料金は皮肉にも空港にタクシーで向かう料金よりも安くなってしまうほどであったという。
エアーバスA320、A321、A330の機材を16機所有してアメリカ、アジア、ヨーロッパ大陸と36の空港を繋ぐ路線を持つまでに成長したのである。(参照:lavanguardia.com)
しかし、ヨーロッパの格安航空の乗客を奪い合う熾烈な競争と燃料の負担が次第にWOWの経営を圧迫するようになるのである。
倒産する前に債権者に会社の49%の株を売却し、残り51%の買い手を探していた。しかし、新たな資金源を見つけることができなかった。それが倒産を導いてしまった。
倒産してアイスランド通貨クローナが下落したため緊急の閣僚会議も開かれたほどであった。しかし、政府は公的資金をWOWの救出には使えないとした。(参照:infobae.com)
スクリ・モゲンセンはこれまで自分の履歴書を書いたことはなく、就職に面接を受けたこともないという。一定の仕事にこだわることなく一つの企業を創設して、その後売却するということを繰り替えして来た人物だ。WOWも成長を続けていれば、いずれ売却していたかもしれない。(参照:lavanguardia.com)
しかし、彼は初めて企業経営で失敗した。今後のWOWの搭乗予定客への選択の余地はない。他社が提供している救済特別運賃を払う以外に方法はないという。また、これから搭乗を予定して旅行代理店で航空券を支払っている人は同代理店にその返済を交渉する以外の方法はない。
旅行代理店はこのような場合の保険に加入しているのが通常であるからである。ネットでクレジットカードで支払っている場合は、そのカードを運営している銀行またはクレジット会社にコンタクトして料金返済の交渉をする必要がある。WOWでは一切金銭面での負担はできないとした。
2017年だけでもヨーロッパで新たに31の中小の航空会社が誕生し、その一方で14社が倒産している。英国が欧州連合から離脱すれば航空業界も変化が生じるはずである。その影響でまた倒産する航空会社も出て来る可能性がある。
(参照:hosteltur.com)
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家