今年2月より、内部通報制度に関する認証制度の登録受付が開始されましたが、このたび認証第1号として伊藤忠商事とMS&ADが登録されたそうです(おめでとうございます!)。伊藤忠さんは、もともと不正調査専門の内部監査グループを社内に設立するなど、不正の早期発見にはとても熱心なので、第1号企業というのもナットクです。今回は自己適合宣言認証なので、次は第三者認証を目指されるのでしょうね。今後、次々と認証登録企業が公表されるものと思料します。
さて(ここからが本題ですが)、4月22日の日経産業新聞「眼光紙背」に「困った社外取締役」なる小稿が掲載されています。東証1部上場会社では複数の社外取締役を選任するのがあたりまえの時代になりましたが、社外取締役を受け入れる企業から弊害も聞こえてくるようになった、とのこと。そして、ガバナンス助言会社による意見として「困った社外取締役」の3つのタイプが紹介されています。
①社長経験者で、あれこれを指図をして世話役の取締役会スタッフを振り回す王様型、②出身会社ではナンバー2止まりで、社外役員として厚遇されることから尊大になる勘違い型、③「〇◆では・・・」と、何かにつけて他社例を引き合いに出して議案に反対する「出羽守」型、だそうです。
ただ、①については業務執行型社外取締役として企業から歓迎されるパターンでもあります。経営者OBにはたしかにこの型が多く、社長から「業務執行に近い形で活躍していただきたい」と期待されて経営経験をフルに活用して喜ばれている方も多いと思います。もちろん会社法上の社外取締役といえるためには業務執行はできませんが、M&AにおけるDDや交渉等に参画する方はとても重宝がられています。
また、②については、ナンバー2でなくても尊大な人はいるので、あまりナンバー2とは関係ないのではないかと。むしろナンバー2でCFOとして活躍された方は、他社でも知見が活かせるのではないでしょうか。とりわけ会社の有事ともなれば、いわゆる根回し(情報共有範囲の決定、情報伝達の順番の決定等)に長けた方が多く、私もこういったナンバー2の社外役員の方に本業で何度も助けていただきました。
そして最後の③「出羽守」型というのも、社長から「『井の中の蛙』になりたくないので、他社ではどうなっているのか、積極的に教えてほしい」と依頼をされて社外取締役に就任するケースも多いので、これも特に弊害というほどのことではないと考えます。
日弁連の社外取締役ガイドライン2019改訂版では、「第3 社外取締役の具体的活動の指針」1の⑴として「社外取締役就任時にあたって、経営陣が社外取締役に何を期待しているのか(期待される視点・発言、所属する委員会、報酬や条件等)を確認する。なお、上場会社の場合、会社が社外取締役に求める役割、責務等について、コーポレートガバナンス・コード等を踏まえて、会社の考え方、対応を確認する」と明記しています。
上記論稿に示された社外取締役の弊害を防止し、困った社外取締役にならないためにも、就任時における経営陣との丁寧な協議が必要です。会社から期待される役割とは何か、経営陣との間でしっかりと確認することがもっとも大切だと考えます。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。