ビジネスパーソンには根回しが周到な人が多いと思います。日露戦争の際に、伊藤博文がルーズベルトのもとに同級生を向かわせて、アメリカに講和の仲介をしてもらえるように「根回し」をさせたという話は、戦争という国際紛争の場においても根回しが効果的であることの証明です。
また、ニクソンが大統領選挙でケネディに敗れたあとに、日本を訪問した際、岸信介は失意のニクソンを手厚くもてなしました。これが後にニクソンが大統領になった時に、日本のために大いに役立ったという例なども「根回し」の一例ではないかと思われます。
根回しの目的とは、単なる意見調整ではありません。企業であれば、人事や異動に関すること、合併や事業閉鎖などリストラに関するような内容は、突然切り出されてもインパクトが大きく、根回しをせずに実行すると猛烈な反対にあい混乱をきたすことがあります。
このような影響を最小限にするために、根回しが必要になるのです。ビジネスの根回しにはそれなりの手間と時間が必要になることがあります。なかには時間の無駄であると言われる方もいるかも知れません。しかし、最終的に企業への影響を最小限にするためには、根回しに掛かる手間や労力は必要コストと考えなくてはいけません。
ビジネスでは相手に衝撃を与える厳しい決断を迫る場合があるかも知れません。仮にそのような厳しい決断であっても、最大限相手に配慮することが根回しです。初歩的なことから説明をしますと、上司や他の部門に頼み事をしたいときや、重要な決定をしなければならないときには、会議の前にキーマンとなる人物に根回しをしておくことが必要です。
会議で知らないことをいきなり話されても、相手もすぐに判断できず、了承してもらえないことは良くあります。会議の参加者はキーマンの意見を重視します。ですから、事前にキーマンに対してお伺いをたてることも重要です。
キーマンに事前に相談せずに会議で議論をはじめると、メンツをつぶされたと思い強硬に反対されることがあります。重要な案件であればあるほど事前に、「話を伺った」という形を作ることが大切です。
これは外部に企画を提案するなどのプレゼンの際にも有効です。プレゼンで紹介する内容を、会議に出席する人にあらかじめ話をして賛成票を集めておけば良いのです。事前に根回しをすれば、外部の企画提案をこちら主導で進めることができます。
なかには公平性を期すためにそのような話を聞かないというケースもありますが、日本の社会で、完全にオープンな企画提案など存在しません。もし事前に、根回しを拒否されたとしたらそれはかなり分が悪い企画提案だと思ったほうが良いでしょう。
ビジネスでは、既に事前にシナリオが決まっていることが少なくありません。落としどころやシナリオは事前に用意して流れに乗せてしまうことです。
参考書籍(筆者の新刊紹介)
『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員