職業マンガとしてはすばらしく出来がいい。荒井マレレの作画、富野浩充による業界ネタはどちらも水準が高く、(やや誇張があるが)素敵な薬剤師を見せてくれる。
しかし、お金の問題については、各職種の所得を並べるだけで、就職までに費やした費用のことは何も言わない。
2巻では、薬科大学の同級生が集まって、同窓会を開いている。ここで、各職種の所得が開示される。
額面 | 手取り | |
病院薬剤師 | 380万円 | 302万円 |
調剤薬局 | 440万円 | 339万円 |
調剤ドラッグストア併設 | 480万円 | 365万円 |
MR(製薬会社営業) | 590万円 | 443万円 |
MRだけ頭一つ抜けているが、MRになるには大卒であればよいのであり、卒業学科は問題にならない。薬学部卒のMRもいるが、工学部、農学部、文学部、経済学部卒のMRもたくさんいる。MRになるのであれば、薬学部を出たのは学費の無駄でしかなかったのである。
彼女たちは、全員が女性であることからみても、私立薬科大学卒だろう。
薬剤師資格が取得できる6年制薬学部の定員は、国公立700人、私立10,000人なので、ほぼ私立しか選択肢がない。就学期間は6年、学費は安くても1200万円くらいである。
6年間の学生生活の間に失われた所得は、厚労省賃金構造基本統計調査によると、高卒20-25歳の年収額面250万円、手取り年収198万円なので、6年間では額面で1500万円、手取りで1188万円となる。
教育に2400万円の金をつかって、手取り年収300万円から400万円の職に就くのが、薬剤師という職業なのだ。高卒就職と比較した所得増加は、手取りで100万円から120万円である。投資回収には20年から24年もかかる。
「続けていればそのうち賃金が上がる」ということもない。医療職に年功賃金の要素は少なく、ずっとこのままである。「5年以内に年収1000万円いってやる」とイキっているMRのお姉さんは別であるが。
これは、もう、投資として破綻している。
教育によって貧しくなるとは、こういうことなのだ。
井上晃宏(医師、薬剤師)