「平成」が幕を閉じる日まであまりノスタルジックな気持ちになることは無かったのだが、日本人的メンタリティと言えば良いのか、いざ改元を迎えると、厳かな気持ちになった。それと同時に、妙な郷愁にかられてしまい、思い出を一つだけしたためておきたくなった。
若い方にはピンとこないであろうが、一定の年代の方には馴染みのある言葉に「半ドン」というものがある。言葉の由来にはオランダ語説ほか諸説あるようだが、言葉の定義としては、午前中のみの営業(勤務が午前中のみ)ということで世間のコンセンサスを得ているだろう。
労働時間の調整弁だけでない「半ドン」の効果
筆者自身の体験談なのだが、バブル崩壊初期の平成3年(1991年)に地元の商工会議所に入所した当時、まだ土曜日は午前中の通常業務を行っていた。まさに「半ドン」であった。
法定労働時間は平成の御代に移るほんの数年前に法改正されて、それまでの週48時間労働から現在の週40時間労働に引き下げされた。しかし、激変緩和策として移行期間が設けられ、その期間中は週44時間労働制も認められていた。この対応策の一つとして「半ドン」が多く採用されていたのであろう。まさにこの移行期間中に筆者は社会人としてのスタートを切った。
正直に当時の心境を振り返れば、半日業務だった土曜日は「午後から何をしようかな?」などと、少々浮ついた中途半端な気持ちで勤務していたような思いもあった。クライアントの会員企業の皆さまに対して、申し訳ない気持ちになることは否定は出来ない。
しかし、労働時間削減の一手段として誕生したとも言える「半ドン」だが、他方、午後の予定を自身の“お楽しみの糧”として、午前中に気合いを入れ、短時間集中で熱い対応をさせて頂いた記憶も数多くある。自省を込めつつ開陳したいのだが、これは一種の「半ドン」の効果ではないであろうか?
「働き方改革」の一策になり得るのかも?
平成最後の4月に始まった「働き方改革」では、初めて労働時間の上限に規制が設けられた。これに違反した場合、即時、適用されることになるのか現時点ではまだ判然としてはいないが、罰則も設けられた。しかし、単に時間短縮すれば勝手に生産性が向上する訳ではない。
無駄な社内会議を廃止する、さまざまな情報をきちんと共有する、自動化・省力化できる業務を洗い出す、業務マニュアルを作成する、クライアントからの無理な要求をキッパリと拒否する、組織内での権限移譲を行う等々、業務改善&生産性向上の策はそれぞれの業種や企業規模によって千差万別であり、異なることであろう。
しかし、どんな職種であれ、それらに加えて働く者の意欲を向上させることは、最も大切な要素の一つであるはずだ。今更ではあるが「半ドンの思い出」の感慨に浸りつつ、そう改めて強く感じた。
例えば土曜日だけでなく、平日の火曜日や水曜日を「半ドン」に設定する。これを達成するために必要な対策を個々人が真摯に考え抜く。企業はこれを全力でサポートする。一朝一夕にできることでは無いし、理想論批判を受けるのかも知れないが、やる前から出来ぬ御託を並べても前には進めない。
もしかしたら、新しい「令和」を牽引してゆく若い世代には、本当に「半ドン」が受け入れられるのではないだろうか?もし、そうであるならば、この「働き方」が確立され、定着していけば、日本人の仕事に対する意識も変してゆくことに繋がって行くと考えるのは妄想だろうか?
外国籍の“労働者”が正式に誕生するなか、「半ドン」という平成の遺物が来るべき「令和」の御代に蘇り、日本で働く全ての労働者の『仕事と生活の調和』に繋がれば良いなぁ…という夢想を抱きながら迎えた改元の時だった。
源田 裕久(げんだ ひろひさ) 社会保険労務士/産業心理カウンセラー アゴラ出版道場3期生
足利商工会議所にて労働保険事務組合の担当者として労務関連業務全般に従事。延べ500社以上の中小企業の経営相談に対応してきた。2012年に社会保険労務士試験に合格・開業。2016年に法人化して、これまで地域内外の中小企業約60社に対し、働きやすい職場環境づくりや労務対策、賢く利用すべき助成金活用のアドバイスなどを行っている。公式サイト「社会保険労務士法人パートナーズメニュー」