どうなる、元徴用工訴訟の資産現金化問題

岡本 裕明

元徴用工訴訟に絡み、原告が日本製鉄(元新日鐵住金)と不二越の韓国内資産売却手続きに入ったと報じられています。また、韓国外務大臣の康京和氏が「国民の権利の行使が進行している手続きであり、政府が介入する考えはない」と発言しています。

(KBSニュースより:編集部)

(KBSニュースより:編集部)

難しい問題ですが、この問題、佳境に入ってきたと思います。菅官房長官は「手の内は明かさない」とし、政府としては何らかの対案を考えているものと思われますが、一連の国家行事が終わった連休明けからの動きが注目されるのではないでしょうか?

ネットなどで多く出ている「対抗策」とは「やられたらやり返す」案ばかりで肝心な日本製鉄や不二越、更には今後も続々と続くであろう日本企業に対する同訴訟の判決、資産差し押さえへの「実害」についての対案は聞こえてきません。菅官房長官も「日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも関係企業と緊密に連絡を取りつつ、適切に対応したい」(19年3月25日発言)という趣旨の発言に終始しており、企業側のコメントも「政府と調整している」といったものがほとんどであります。

では企業が本件で実害を被った場合、企業は「負けました」で終わる話でしょうか?当該徴用工問題が発生した主因は国家方針の中の問題であって個別企業はそれに従わざるを得なかったはずです。なおかつ、1965年の日韓請求権協定で日韓政府間で本件は解決済と認識してきたわけです。企業側としては解決されたのだからそれを蒸し返されることはなく、仮にそれが覆されるような事実があるとすれば日本企業側には求償権が日本政府に対してあるととれないでしょうか。

私ならこの問題をどうするか、いろいろ考えました。専門家でもなんでもないのですが、こんな手段を考えます。

日本製鉄や不二越など資産差し押さえの判決を受けた企業は日本政府を形の上で訴訟する。それを受けて日本政府は資産処分対象の金額相当を企業側に代わり韓国の裁判所に供託し、個別企業の訴訟による資産の流動化、現金化を防ぐ。ここで元徴用工問題の日本企業対韓国側被害者という構図を日本政府がそれを請け負う形にすり替え、日韓政府間問題にすることで日本政府が考えうる正当な対抗策を打ち出す。供託した資金はすぐに原告に支払われるかもしれないが、日本政府が一連の判決が日韓請求権協定を不当に曲解した裁判であり、日本政府は損失を被ったとして日本で訴訟し、日本国内にある韓国資産の同額差し押さえを行う、というシナリオです。

ネット上に掲げられているあらゆる対抗策、フッ素水素輸出禁止、韓国製品への関税、韓国への送金停止、韓国からの投資し引き上げ、査証免除の廃止などはフッ素水素を別としてあまり意味をなさない対抗策であるばかりか、副作用が大きいものばかりです。(日本に跳ね返ってくる案ばかりです。)

個人的には韓国とは距離を置くスタンスであるべき、と考えておりますが、元徴用工問題で企業に実損が出ることは政府として絶対に避けなければならず、これだけは守り通すのが日本政府の最大の役目でありましょう。

日本政府には秘策がある思われますのでどんなものか期待しておりますが、この一連の問題が生み出した日本側の韓国への不信感は相当長期にわたり根深いものです。韓国政府が本件に一切踏み込まなかったのは踏み込めば韓国政府が国内から相当厳しい立場に追い込まれる恐れがあるからでしょう。2011年、慰安婦問題で憲法裁判所の判決が出た際、李明博元大統領も突然対日方針が180度転換しました。韓国政府は本件に一切の有効な対案を示すことはありません。それは2011年の際の韓国政府の態度が実証しています。

日本政府ももちろんそんなことは分かっているでしょう。「いろいろ申し入れている」というのは表面上の対応であり、日本政府の堪忍袋の緒はとうの昔に切れていることを韓国政府も十分承知で日本には近寄りたくないというのが今の正直なところのはずです。日本政府の賢い対応を期待したいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月3日の記事より転載させていただきました。