スウェーデンの女子生徒、グレタ・トゥーンベリさんは昨年8月、スウェーデン議会前で地球温暖化問題、気候変動対策のための学校ストライキを行ったことで一躍有名となった後、同年12月の第24回気候変動枠組み条約締結国会議(COP24)に出席。欧米ではグレタさんの活動に刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、世界270カ所の都市で地球温暖化対策デモ集会を開催してきた。(動画はグレタさんによるCOP24でのスピーチ、国連広報センターYouTubeより:編集部)
欧米のメディアではグレタさんの活躍は大きく報道され、ノーベル平和賞候補者に上がるほど有名人となったが、ここにきて欧米の極右ポピュリストたちからグレタさんへの批判の声が出てきた。オーストリア通信(APA)が3日、報じた(「『ノーベル平和賞』の未来を考えた」2019年4月8日参考)。
オバマ前米大統領は4月6日、ベルリンで若者たちに向かって、「君たちは祖父母からどのような音楽を聴くべきか、何が重要であるかを決定されたくはないだろう。どのような世界に生きるかでも同じだ」と述べ、「環境問題は人類の生存をかけた挑戦だ。我々が生きている地球は危機に瀕している。環境保護のため、誰かがするまで待っているのでは成果は期待できない」と強調し、欧米社会で若者たちが毎金曜日午後に地球温暖化対策のためデモ集会(フライデー・フォー・フィーチャー)を開催していることを評価したばかりだ。
それに対し、欧米の極右ポピュリストは16歳の少女に対して個人攻撃を始めた。例えば、ドイツのザクセン州の「ドイツのための選択肢」(AfD)のマキシミリアン・クラ―副代表は、「哀れな子供だ。精神治療を必要としている」と中傷。
極右派雑誌「Alles Loger」のローランド・ホーフバウアー編集長は「醜い娘だ」といった類の誹謗を繰り返す。彼らは「グレタさんは環境保護運動のアイコンに利用されているだけだ」というのだ。
グレタさんの母国、スウェーデンでも右翼ポピュリストの「スウェーデン民主党」(SD)のジミー・オケーソン党首は、「グレタさんは環境問題運動をする団体の広告塔だ」と単刀直入に批判している一人だ。
それに対し、グレタさんの活動を擁護する側は、「極右派のグレタさん批判の背後には極右派の典型的な女性観が現れている。彼らはグレタさんが訴えている環境保護問題にはなにも言及せず。もっぱら個人攻撃に終始している」と指摘する。
本人も明らかにしているように、グレタさんはアスぺルガー症候群に罹っている。両親の影響もあって環境問題に強い関心を有し、2018年8月、スウェーデン議会前で気候変動問題のための学校ストライキを行ったことを皮切りに、これまで世界各地で地球温暖化対策の重要性を訴えてきた。
極右派のグレタさん批判には気候変動問題に対する専門的な観点からの批判はほとんど聞かれない。この問題を正面から批判することは極右派にとっても難しい。そこで極右派は地球温暖化対策運動そのものを直接批判せず、グレタさんと彼女の家族への攻撃に出てきているわけだ。
ある社会学者は、「極右派は敵を見つけ出し、そこに個人攻撃を強めていく。極右派の典型的な戦略だ。解決策や妥協点を探すための批判、議論ではない」と受け取っている。
グレタさんの運動に対しては学校関係者からも批判の声があることは事実だ。毎週金曜日の若者のデモ集会をオバマ氏は評価したが、デモ集会に参加する生徒や学生たちは学校や大学の授業を休んで参加するケースが少なくないからだ。参加するなら授業のない学校の休みの日にすべきだとの主張だ。金曜日の同集会に参加するために、親が子供を学校からピックアップし、デモ集会に連れていく、といった情景も見られだした。オーストリア代表紙プレッセ紙は「学生の本分は勉強だ」としてデモに参加する前に勉強すべきだ、と主張している。
グレタさんを擁護する側は、「グレタが両親に利用されている、学校をさぼる生徒に悪用されている、といった批判はグレタさんが何を言っているかとは関係がないことだ。彼女は気候変動対策を訴えているのだ。彼女の運動は民族主義といったイデオロギーとは関係がない。極右派の批判は気候変動問題を指摘するグレタさんの口塞ぎで、言論の自由の蹂躙だ」と強く反論している。
グレタさんは今年2月、ツイッターで「最近、私に対して多くのうわさや憎悪が発信されていることを知っている。何も驚きに値しない」と冷静に対応する姿勢を示している。
地球温暖化問題は一国だけの問題や大企業の責任だけではない。地球レベルの問題だ。極右派のグレタさん批判は専門的な議論を回避した個人攻撃に終始しているのは残念だ。一方、グレタさんの運動だけに注目するのではなく、地道に環境保護のために実践している会社、機関、団体に対しても目を向けるべきだろう。いずれにしても、極右ポピュリストのグレタさん批判には地球温暖化問題への深刻さが決定的に欠けている。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月4日の記事に一部加筆。