また韓国ネタで気が引けるが何しろトピックが多いのでご容赦願いたい。ここ最近、文政権に批判的な記事が目立つ韓国各紙、5月5日には朝鮮日報が「『反日』で韓国を駄目にして日本を助ける『売国』文在寅政権」と題した朴正薫論説委員の署名記事を掲載した。
日本人もこの記事の多くの部分に共感できると思う。(以下、太字は筆者。・・は省略の意)
韓国の文在寅政権が「親日」フレームを駆使するのは、左派統治のための一種の「陣営の論理」にほかならない。心から問いたい。….日本のために韓国の国益を投げ捨てる売国奴がいるということか。…光復…からおよそ70年が流れ、世の中は大きく変わった。…にもかかわらず、70年前の物差しを持ち出して魔女狩りを繰り広げ…ている。…「先進国」でこんなことが起こっていいのか、と思う。
韓国人は自らの力で光復を勝ち取ることができなかった。他人が持ってきてくれた独立だった…。国力競争で日本に勝つことが真の光復だった。・・新たな国家建設に力を貸した国民一人一人が独立運動家だった。そうして国を発展させた克日の民族エネルギーを、現政権は理解できずにいる。
サムスン・LGは(ディスプレー市場で)血のにじむ生き残りゲームで勝利し、・・テレビは30年におよぶソニーの独走を終息させ、現代・大宇は造船の「日の丸軍団」に立ち向かった。現代自動車はトヨタ、ポスコは新日鉄に匹敵する競争相手へと成長した。これが克日であって、真の独立だろう。
企業だけでなく、あらゆる部門、全ての韓国国民がそうだった。各人が己の立ち位置で日本を競争相手として、国力を育むことに力を貸した。光復後の70年史は、また別の独立運動の歴史だった。
「親しくしてこそ勝てる」という克日の観点を、現政権は理解できずにいる。単細胞的な世界観で固まり、国際孤立と外交的なのけ者状態を自ら招いている。・・韓国の国力が衰弱したら誰が喜ぶか、想像するのは難しくない。反日を原理主義的教理のごとく振り回す権力者に問う。どちらが日本を助ける親日で、誰が国を駄目にする売国をしているのかと。
14年にも及んだ日韓国交正常化交渉が纏まった1965年頃からの、韓国経済の発展振りは誰もが目を見張るほど見事だった。記事にあるようにそれは「克日」の賜物だったに違いない。そこで筆者は、朴委員が「韓国人は自らの力で光復を勝ち取ることができなかった。他人が持ってきてくれた独立だった…」と歴史を振り返って、正しく自覚しているところに先ず注目する。
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韓国は国家としての「正当性(legitimacy)」に関して北朝鮮に「引け目」を感じているといわれる。それは金日成が率いた北朝鮮が曲がりなりにも日本と戦ったのに対して、李承晩の韓国は、三・一運動は総督府に内乱として即座に鎮圧され、上海臨時政府も国民党政府の庇護の下で旗揚げを宣言したに過ぎないことに起因しよう。
この辺りは古田博司筑波大学教授の2013年11月8日付産経新聞正論「『棚ぼた式独立』」の傷うずく韓国」に詳しい(古田教授といい、「アジア女性基金」の世話役の一人だった国際法学者の大沼保昭教授といい、一旦は韓国に肩入れしたものの、後に裏切られ失望させられた方の韓国評はその分余計に辛辣だ)。
ともかくも大韓民国独立は連合国から与えられたことは否定しがたい。が、事実よりもあるべき歴史を求める文政権は1919年3月1日の三・一運動をもって韓国が独立した、と歴史を歪めにかかっている。その病膏肓に入り、金日成の抗日闘争を建国の原点にしている北朝鮮の金正恩を三一運動100周年の式典に招くという挙にすら出た。勿論無視されたが、この頓珍漢さは絶望的でさえある。
次に朴委員が「企業だけでなく、あらゆる部門、全ての韓国国民がそうだった。各人が己の立ち位置で日本を競争相手として、国力を育むことに力を貸した。光復後の70年史は、また別の独立運動の歴史だった」というのにも、筆者はその通りだとの感を覚える。
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我々日本人は官民10億ドル超の日本の経済協力ばかりを「漢江の奇跡」の源泉として強調し勝ちだ。が、ベトナム戦争の恩恵もそれに勝るとも劣らない。韓国とベトナムというと我々は慰安婦問題との関係でついライダイハンを想起するがそれだけではなさそうだ。朝日新聞は「韓国、軍も企業もベトナム参戦」と題する2008年の特集記事でこう書いている。(太字は筆者)
(静岡大学教授の)朴教授によると、韓国は65年から72年まで米国からのベトナム特需で潤い、その総額は10億2200万ドルにのぼる。うち72%が、労働者や軍人の送金、道路建設、浚渫工事、輸送など貿易外だった。「韓国は売る物がなく、労働力を提供するしかなかった」と朴教授は言う。現代、韓進、大宇、三星……。後の大財閥は、ベトナム特需で発展の基礎を築いた。
いかな朝日でもベトナム特需10.2億ドルは捏造ではなかろう。朴教授の書く通り「朴大統領ら政府首脳は、日本が朝鮮戦争の特需で戦後復興を成し遂げたことをよく知っていた。韓国もベトナム戦争に積極的に加わり、特需により経済発展を遂げようとした」。事実、日本の戦後復興は紛れもなく朝鮮戦争のお陰だった。要するに「全ての韓国国民が」日本を手本として「国力を育むことに力を貸した」のだ。
次は「反日を原理主義的教理のごとく振り回す権力者に問う。どちらが日本を助ける親日で、誰が国を駄目にする売国をしているのかと」と述べている部分だ。韓国と北朝鮮の「反日」の原点の一つとして、光復後の南北朝鮮の指導者となった金日成と李承晩の二人が二人共、日本統治期にはそれぞれソ連と米国に逃げていて、日本統治を経験していなかったことを指摘する論がある。
また、韓国には386世代と呼ばれる層(1990年代に30代で、80年代に大学生として民主化運動に参加した60年代生まれ)がおり挙って文大統領支持らしい。共通項は386世代も文在寅(1953年生)も金日成も李承晩も揃って日本統治の経験がないことだ。一方、苦心惨憺して1965年に日韓の国交を回復させた世代はみな日本統治の経験者だった。ここに深い意味がある。
最後は朴委員が「国力競争で日本に勝つことが真の光復だった」と書く「克日」だ。筆者は4月30日の投稿で「向上心を失い努力をしなければ人間は進歩しない」、自分を他者と比べて一番になりたがることを「果たしてそれは悪いことだろうか。筆者はそうは思わない。…要は妬み嫉みがいけないだけだ」と書いた。
この記事に筆者が共感した一番の理由は実はここだ。(少々牽強付会だが)1965年当時の韓国は妬み嫉みを横に置き、日本に勝つ努力をしたと思うのだ。凡そ向上心を持つ者には妬み嫉みが生じにくいのではなかろうか。
優れている対象の存在はむしろ自らの努力の源泉だ。努力して追い付けば達成感になるし、如何に努力しようが及ばないと悟れば対象への敬意が湧く。そこに妬み嫉みが生じる余地がないとはいわぬ、がそう激しくはなかろう。
まさに、未だに「70年前の物差しを持ち出して魔女狩りを」しているようではとても韓国を「先進国」と呼べまい。文大統領がやるべきは、半世紀前の気持ちに立ち戻り、朴委員のいう「また別の独立運動の歴史」を作ることと筆者は思う。が、果たして韓国の読者はこの記事をどう読んだだろうか。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。