消費税で議論されるべきは「正しいアジェンダの設定」 --- 筒井 和人

今、課題となっている、消費税や憲法改正の問題を議論するに当たり、まず、前提として議論されるべきは、我が国の安全保障や社会経済の現状である。

平成とは、安全保障と社会経済の戦略が空洞化した時代である。安全保障は、中国の弾道ミサイルによる戦略環境のパラダイムシフトが進み、米はINFを破棄するに至った。米INF破棄は、米が中国の弾道ミサイルによる戦略環境のパラダイムシフトを認識し、憲法改正のボールが日本に投げられているということである。

また、社会経済は、少子化と消費停滞が継続している。これは、社会システムの公平性劣化が原因である。地価、塾依存教育、年金等世代間格差、非正規賃金等の問題が平成期に発生し、将来不安が、少子化と消費停滞に繋がっている。
消費停滞は経済問題ではなく、少子化も保育所問題ではなく、社会システムの構造問題である。

白川前日銀総裁(Wikipedia:編集部)

日銀の白川前総裁が「正しいアジェンダの設定を」と述べられているが、その通りである。正しいアジェンダはデフレではなく、社会システムの公平性劣化である。

消費税の問題に戻るならば、消費税は財政健全化のため必要である。むしろ、議論されるべきは、消費税にともなう、逆進性の問題、また、平成に発生し継続し、少子化と消費停滞を誘発している「公平性劣化」の回復の問題である。消費税に伴い、軽減税率が導入されるが、本来は、望ましくない。事務負担膨大、さらに、軽減すべきでない富裕層まで軽減し、逆進性是正にならず、財政健全化も阻害する。

我が国が抱える、逆進性や年金等世代間格差、財政健全化の問題を踏まえるなら、なされるべきは、「現在世代内の再分配」である。マイナンバー資産課税により子育て世代に再分配する。年長者、富裕層から再分配する。年長者から再分配すれば、年金等世代間格差是正につながる。富裕層から再分配すれば、逆進性是正につながる。

また、再分配を幼児教育無償化に充てれば、将来転嫁が是正され、財政健全化につながる。幼児教育無償化は少子化解決の観点から適切な施策であるが消費税を財源とすることから、財政健全化の妨げとなっており、財源の確保が必要である。

消費税は必要だが、平成に進んだ公平性劣化や逆進性を是正するために、また、財政健全化を確保するために、必要な措置を如何に組み合わせるかという議論がなされるべきである。それは、少子化が戦略的問題であり、消費停滞も同根であることから、財政健全化と同時に議論されるべき重要な問題であることは明らかである。

つまり、安全保障も社会経済も、戦略を再構築しなければならない時であるということである。

平成とは、戦略的思考が欠如し、その影響が深刻化した時期である。

安全保障は、戦略的思考の欠如が、中国の弾道ミサイルによる戦略環境のパラダイムシフトを認識させていない。例外は、4月7日の朝日新聞報道である。同報道は、米側の取材も含め、戦略環境のパラダイムシフトを適切に報道している。しかしながら、一般に、マスコミが不都合な「現実」を報道しているわけではないことは、平和神話に囚われた我が国において依然として変わっていない。

社会経済は、戦略的思考の欠如が、戦略的問題である。少子化を放置し、また、少子化と同根である、消費停滞にも適切な対応を取ることを妨げた。その結果が、平成期に継続する、少子化と消費停滞である。これは日本に特異である。失われた25年、他国には見られない消費停滞が継続し、他国は機能した量的緩和が機能せず、他国には見られない少子化まで発生した。社会システムの公平性劣化の烈度が大だからである。

我が国に固有の問題として、速やかに解決がなされるべき問題である。これらの問題は残念ながら、国が起こした問題である。市場の失敗と制度劣化が原因である。背景には、シルバー民主主義、既得権などがある。解決にカネはかからない。むしろ、再分配や国の適切な関与など、ソフトの問題である。

今、議論されるべきは、消費税の問題も含めた、空洞化した戦略の再構築についてである。
安全保障と社会経済に同時に訪れた、戦略の空洞化に対し、その原因、直面する現実を直視し、戦略の再構築を行うことである。

白川前総裁が指摘された通り、「正しいアジェンダの設定」が行われなければならない時である。

筒井 和人   防衛省OB
1980年3月東大経済学部卒業後、防衛庁入庁。在米日本大使館一等書記官、防衛研究所企画官、北関東防衛局長、装備施設本部副本部長、技術研究本部副本部長などを歴任し、2014年7月退職。現在は会社員。

おしらせ:「消費増税に賛成?反対?」の原稿を募集中です

官邸サイトより:編集部

アゴラでは5月、「消費増税に賛成?反対?」をテーマに原稿を公募中です。

自民党の萩生田幹事長代行が4月18日、インターネットテレビで10月の消費税増税が延期される可能性に言及。安倍首相の側近である萩生田氏の発言の真意を巡って憶測が広がり、永田町やメディアは衆参ダブル選挙のシナリオも含め、連休前の政局が緊迫しました。萩生田発言の後も、政府はリーマンショック級の事態がない限りは増税の方針を堅持していますが、超高齢化に伴う社会保障コスト増大は避けられません。果たしていまの日本は増税すべきなのか?皆さんのご意見をお聞かせください。

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