丸山発言への丸刈り勧告に賛同する

高橋 大輔

丸山穂高議員が国後島へのビザなし交流訪問団に参加した際の発言が、波紋を広げています。発言に対する配慮の至らなさに呆れたのは私も同様ですが、その処遇に関して思いを巡らしていたところ、ちょうどアゴラ・新田編集長の記事に注目しました。

日本維新の会が同氏の離党届を受理せず、除名処分を決定しました。決定前の記事ながらも私が思うところに近く、そしてより深かったこともあり、一連の騒動に関する雑感を述べたいと思います。

丸山氏ツイッターより:編集部

1.発言時の立場について

まず発言の舞台となった交流訪問団ですが、丸山議員は公人の立場で加わっているので、その発言に対する責めを負うのは免れないでしょう。

酔った勢いということも、まったくもって弁解の材料にはなりません。
菅官房長官が「政府の立場と全く異なる」とし、「詳細を承知していないが、報道されていることが事実であれば、誠に遺憾だ」と続けた一方で、「一議員の発言であり、政府としてロシア側に説明する考えはない」との立場を表明された点は私も同意です。

2.相応のペナルティは何か

私自身、今回の件に対しては国民の一人として、丸山議員に猛省を促したい立場です。
一方で、舌禍に対するペナルティとして除名や辞職がふさわしいかとどうかと言われるとどうか。ここで述べる除名とは党の決定ではなく「国会議員としての除名」です。

第一報に触れたときは、たしかに「けしからん、即辞職だ」と思いました。けれどもひと晩経ってクールダウンした現在は、心持ちが変わりました。大いに反省して欲しい一方で、私も丸山議員に対し即座の辞職までは求めません。瞬間的には溜飲が下がっても、長期的には国益を損なう結果につながるからです。

およそ80年前の1938年(昭和13年)3月16日、社会大衆党所属の西尾末広議員による舌禍が国会を揺るがしました。
国家総動員法の採決をめぐり、西尾議員が当時の近衛文麿総理に対し「ヒトラーのごとく、ムッソリーニのごとく、あるいはスターリンのごとく確信に満ちた指導者たれ」と発言したことが発端となり、6度の懲罰委員会を経て除名処分となった一件です。

6度目最後の懲罰委員会には尾崎行雄も名乗りを上げ、議会が議員の言論を封ずるのは民主主義の自殺行為であるとして西尾議員の失言を一次一句繰り返し、次のように述べたと述懐しています。

もし西尾君の言説が除名に値する罪過であるならば、私が繰り返した言説は取り消さないだけにいっそう重い罪過でなければならぬはずだ。西尾君を除名する前に私を除名せよ。

もしも丸山議員が己の発言を振り返り「それがどうした、何が悪い」と開き直るならば即刻除名も妥当かもしれません。しかしながら当人はメディア取材に対して、少なくとも謝罪と撤回の意を明らかにしています。
ならば、一連の騒動の落としどころはどこにあるか。ほかならぬ「議場」にこそあると私は思います。

3.丸山議員に、そして国会に求めたいこと

国会議員だからこそ、また発言の内容が日本のあり方を問われるだけのものであるからこそ、丸山議員はしかるべき場で審判を受けるべきだと思うのです。維新の即断は、党利党略としては正しい判断かも知れません。しかしその一方、処分が単なる口封じになることは望みません。

折しも現在は通常国会の開会期間、6月26日までの予定です。ならば、その「お白洲」は世間やメディアではなく、議場にこそ求めたい。まず国会議員の皆さまには、丸山議員に対して発言の機会を与えていただきたい。その際、当人からは一連の発言に対して、国民の代表である議員の方々の前で誠心誠意を尽くしていただきたいと願います。
反省の弁が語られるならば、それを議事録にも残されると良いでしょう。

新田編集長のアドバイスに耳を傾け、丸刈りになるのも有りです。
私自身も過去に一度だけですが、ある仕事で痛恨のミスを冒し「これしかない」と思い詰めて剃髪、お客様のもとへ謝罪に伺った経験があります。丸刈りではまだ手ぬるいです。私ならもう一歩踏み込み、剃髪を求めます。

いずれにしても、公の場で弁解の余地を与えた上で、どのようなペナルティが相当なのかを議場で判断いただきたいと思います。結果として議員除名の判断と決議がなされたならば、それもまた一つの民主主義です。ただし、裁くのは報道機関ではありません。メディアも、そして丸山議員自身も、その点は見誤ってほしくないのです。カメラの前で反省をしたから、あるいは所属政党が除名したからそれで終わる、という話ではないのです。

4.丸山議員と国会は、舌禍を奇貨にできるか

丸山議員本人はじめ日本維新の会、さらには国会において、北方領土問題における国益とは何か。そして今回の舌禍を奇貨とすることができるか。大いに注目したいと思います。

究極的なゴールは領土返還ではありますが、何よりも優先されるべきは故郷を追われた島民の方々の気持ちに寄り添うことであり、国内と同様に誰にも気兼ねすることなく先祖に墓参できる状態を早急に確立することでありましょう。その他にも、近海での拿捕問題やロシア機の領空侵犯など、国境をめぐる問題は陸海空ともに穏やかではありません。

もしも丸山議員が真に反省され、その姿勢が行動を伴うとしたら。きっと誰よりも熱心に北方領土をはじめとする問題に長じ、将来的には国益に資することでしょう。私ならば、猛省とセットでそれを求めたいです。

それとも一時の興奮に任せて、政争の具にしかならない除名と補欠選挙をよしとしたいのか。国会議員もメディアも、そして私たちも試されます。

高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト