彼がもう少し痩せていたならば……

長谷川 良

韓国の北朝鮮関連記事でここ数日、北の食糧不足問題が大きく報道されている。北朝鮮が深刻な食糧不足に陥り、人道から判断しても緊急支援が必要だ、という趣旨の報道だ。100万人以上の国民が飢えで亡くなった金正日総書記時代の飢餓の再来すら懸念する声が聞かれるほどだ。

▲米朝首脳会談前にタバコを吸う金正恩委員長(CNN中継から)

それらの記事の内容が事実とすれば、北朝鮮の国民は深刻な状況下にあるとみて間違いないが、どうしても疑いがでてくるのだ。朝鮮日報は「北で過去6カ月間、米価が下落している」という情報を報じた。具体的には、1キログラムのコメの値段が5000ウオンから4000ウオンに下がったというのだ。値段が下がるということはコメが市場に溢れていることを裏付けている。コメ不足の場合、市場価格は高くなる。それでは、「北朝鮮で食糧不足が深刻だ」というニュースはフェイクニュースだろうか。

北朝鮮中央通信(KCNA)は16日、今年は降雨量が少なく、作物に大きな被害が出ているというニュースを流した。まるで、「だから、食糧不足は深刻なのだ」といったストーリを裏付けるかのようにだ。

北の食糧不足は国連機関が報じた。国連食糧農業機関(FAO)と国連世界食糧計画(WFP)によると、北朝鮮は今年、136万トンの食糧が不足、人口の約40%に当たる国民が飢餓に苦しむとみられ、緊急支援が必要というのだ(韓国聯合ニュース)。

国連側のデータは基本的には加盟国から入手したものだ。関係者が現地視察するが、その範囲は制限されている。簡単に言えば、北当局から「今年降雨量が少なく、作物は被害を受けた。その結果、136万トンの食糧が不足する」という報告を受けた場合、それを疑うことはできない。それが加盟国から構成された国連機関の現状と限界だ。

知人の韓国外交官は、「食糧支援を実施した場合、監視員を必ず現地に派遣するが、北側は歓迎しない。国の威厳、プライドが傷つくと感じるからだ」と説明、北への食糧支援に伴う監視員の派遣は容易でないという。対北食糧支援の場合、複数の国連制裁下にあるだけに、人道支援といっても他のケースのようにはいかない政治的理由もある。

文在寅大統領は訪米でトランプ大統領に対北食糧支援の是非をそれとなく打診したというが、米国側の返答は明らかになっていない。朝鮮半島の最大の危機、北朝鮮の非核化が全く進展していない段階でいかなる支援も良くないという判断が米国側には基本的にあるからだ。一方、韓国側の南北融和政策は目下、デッドロックの状況だ。金正恩朝鮮労働党委員長は文大統領への信頼を失いつつある。金剛山観光から開城工業団地も米国側の強い反対で再開できないだけに、文大統領は食糧問題で貢献したいという思いが強いはずだ。

以上、対北食糧支援問題での問題点を紹介したが、それだけではないというか、最大の障害が横たわっている。金正恩氏だ。170センチ、130キロの巨漢の外貌から「北朝鮮が現在、食糧不足に悩まされている」ということが想像できないのだ。イメージ問題だが、そのイメージは対北食糧支援を一層困難にしているのだ。

北は3代の独裁者が支配する金王朝だ。独裁者は肥え太り、国民は痩せる、というのが独裁国家の通例だ。北の場合も例外ではない。そのうえ、北は大量破壊兵器、原爆を製造する。非公式だが、核保有国だ。そのために巨額の資金を投入してきた国だ。

まとめる。金正恩氏の「体重」と「核保有」という2つの不都合な事実が対北食糧支援への最大の障害なのだ。外交上は「金正恩氏の体重」問題は公式議題とはならないが、舞台裏では常に囁かれているテーマだ。

そこで解決策だ。金正恩氏が体重を10キロ減量する度、国際社会は10万トンの食糧支援を実施するという案だ。そうすれば、北が現在不足している136万トンの食糧を得るためには、130キロ減量すればいいいという単純計算になる。ただし、金正恩氏が130キロを減量すれば、同氏の体重は0キロだ。しかし、北の国民は不足分の食糧を国際社会から得ることができる。換言すれば、金正恩政権が崩壊すれば、北の食糧不足問題は解決できるというわけだ。国際社会はそのことを金正恩氏に告げる時を迎えている。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月17日の記事に一部加筆。