令和に踊っている時でない
新元号の令和ブームもいい加減にしてほしいですね。何かにつけて令和と関連づけて語るメディア、識者、政治家があまりにも多い。「天皇が代わられるたびに、時代の予想を越えて変わることがある」「令和は新しい時代を切り開く」などの声を聞きます。そんなに簡単に新しい時代がくるわけではない。
そんな中で、経済同友会の前代表幹事、小林喜光氏は率直な警告を発しました。辛口で知られる同氏は「平成は敗北の時代であった。そう発言したら、各方面からお叱りをいただいた。負けを認めなければ、次の戦いに挑むこともできない」(15日、読売新聞・論点)と。同感です。
平成元年(1989年)、世界の上位10社のうち7社を日本企業が占めていた。今や最高位の日本企業はトヨタの40位。上位は米国のグーグル、アップル、中国のアリババといったIT企業である。企業人としてこれを敗北と言わず、何を敗北というのか。
世界的な大変革に乗り遅れ
企業のランキングの後退を広い視野で見つめると、こうなります。「グローバル化、デジタル化、ソーシャル化という世界的な大変革に乗り遅れてしまった。過去の成功体験の延長線上に未来はない」「国民の74%が現状に満足している。財政では大きな負担を子孫に先送りしているのに、なぜ現状に満足できるのか」。同友会は自由に発言できる経済団体です。もっと多くの経済人から率直な声を多く聞きたい。
前経団連会長の榊原氏は、官邸の要求に従順でした。「官邸の経済部長か」といわれました。経済人が政治に対して恐れを持っていては、新しい時代を切り開けません。財政膨張、異次元金融緩和が、衰退して瀕死状態の産業、企業(ゾンビ企業)の延命装置になり、企業の新陳代謝の障害となってきました。企業自体も甘え、自由な発想で自らを改革する努力を怠ってきたのです。
米中貿易戦争が激化し、トランプ大統領は中国に対する関税を大幅に引き上げ、中国も報復にでています。これに対し、全米商工会議所会頭のドナヒュー氏は、遠慮なくトランプ政権を批判しています。「長期間にわたる関税の使用は指示しない」「(輸入品にかかる)関税は米企業が米政府に払うことになる」。日本の経済人も政治にいつまでも頭を下げているようではいけない。
経済が政治に従属する
経済が政治に従属する傾向が世界的に強まっています。その最先端は米国でしょう。トランプ大統領は関税摩擦が株価の下落を招いているのを見て、米連銀(中央銀行)に利下げを迫っています。中央銀行の独立性、中立性は主要国で政治に脅かされています。大統領選での勝利のように、政治は目先のことを優先しますから、ブレーキをかける存在として、中央銀行の中立性が必要です。
日本ではすでに政権と日銀が一体化してしまっています。日銀が大量に国債を購入(3月末の保有額480兆円)し、赤字財政に対する危機感が高まらない装置になっています。しかもゼロ金利ですから、国の国債利払い費は8兆円まで縮小しています。
おまけに最近は、「日銀が保有する国債は返済しないですむようにする。そのために永久国債に切り替える」「米国では財政赤字の拡大を容認する現代金融理論(MMT)を巡る議論が活発だ」などの声が国内で聞かれます。財政赤字に歯止めをかけるどころか、「そんなことをしたら、景気が悪くなる」と、財政、金融の正常化と反対方向の議論が目立ちます。
それに対して、「財政と金融が一体化し、世界中にあふれたマネーが10年ごとのバブルの生成・崩壊を起こしている。資産バブルを起こす仕掛けを政治が作っている」という警告が絶えません。1987年のブラックマンデー、97年の東アジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックです。
金融専門家らは「グローバル・マネーの対名目GDP比は上昇を続けている。07年3月は77%だったのが18年末は120%」「グローバルな資産バブルがいずれ崩壊する恐れ」との指摘です。「米国の景気悪化が起きる際には、企業の過剰債務によって、その影響が増幅される」(米FOMC)との見通しでです。
経済政策の政治への従属は、世界経済に様々な歪みを生み出しています。日米欧の超金融緩和で金利が低下し、マネー市場における金利の機能がマヒしてます。
著名な米政治学者、「ユーラシア・グループ」主宰のイアン・ブレマー氏が日本をほめちぎっています。「経済がほどんど成長していないのに、国家がむしばまれて分裂していない唯一の国だ。日本はますます多くの国にとって模範となっている。先進国の中で最も強力な指導者は安倍首相だ」と。
ブレマー氏は日本市場を開拓したいのですかね。日本の政治は、出口のみえない金融財政政策の拡張、膨張によって支えられている。日本には最大の弱点があるのに、おとなしい経済人、おとなしい有権者、おとなしいメディアが声をあげない。政治の安定が金融財政の巨大な犠牲の上にたったもろい構造であることをブレマー氏はきちんと知るべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。