シンガポール視察報告① 発展し続けるための教育

奥澤 高広

こんにちは、東京都議会議員(町田市選出) のおくざわ高広です。

世界の都市間競争が激化する中で、東京が進むべき未来を描くためには、そのライバルとなる都市から学ぶのが一番だろうと考え、シンガポール視察にいってきました。以前シンガポールに住んでいたこともある森沢都議の人脈で、幅広い分野の有識者や現地に住まう日本人起業家などから生の声をお伺いすることができました。お力添え賜りました皆様に、まずは感謝です。

まちづくり、教育、障害者就労、観光施策、起業環境をメインテーマに視察しました。森沢都議もブログで報告をしていますので、こちらもご覧いただきたいと思います。

危機意識が高まったシンガポール
シンガポールからの学び① 戦略的な街づくり

Temasek POLYTECHNICにて。

さて、私からの報告は教育について。今回お話を伺ったのは、Temasek POLYTECHNICのAw Tuan Kee 校長室シニアディレクター。そもそもPOLYTECHNICとは、シンガポール教育省(Ministry of Education)の管轄下にある教育機関で、産業界の実情に応じた人材育成を行う場所で、日本には類似機関はありません。その機関の上級職であるAw Tuan Keeさん、いざ質問をしようとすると、

「まずは、シンガポールという国の成り立ちや背景(置かれた状況)を話してもいいかな?」

つまり、目の前の具体策は、全てシンガポールという国の発展に繋がっているものであり、国のことを知ってもらわなければ、教育のことを語れないよ、ということ。この時点で、ガツンときました。教育はあくまでも手段であって目的ではないわけです。日本の教育は、学ぶこと自体が目的化しているのではないか…という問題意識をもって、以下やり取りをQ&A方式でお伝えします。

Q.シンガポールという国について教えて下さい。
A.シンガポールは、資源が無い、マーケットも小さい国です。だから、生き残っていくには、時代に応じた変化をし続けなければいけません。そのためには、人を育てるしかない、つまり教育に力を入れる必要があります。

Q.教育に最も重要なことは何ですか?
A.経済と教育と開発は一体であることが重要です。社会の成熟度合いに応じて、必要となる教育も変わっていきます。
1950年代には、人口の6割(200万人以上)がスラムに住んでいました。

そこで、1960年~70年代は、とにかく教養(読み書きなどの基礎的な知識)をつけました。労働力を高めるために必要な教育です。

次に、1980年~90年代は、国の開発が進んだことを受け、より高度な教育が求められました。経済発展を念頭に、今でいうICT教育も80年代から計画が練られています。

そして、2000年代に入ると、イノベーションを起こすために必要な課題解決型の教育を重視しています。生産人口ではなく、生産性で勝負する時代です。

Q.厳しい成績ランキングが行われ、10歳には人生が決まってしまうと聞きますが、いかがですか?
A.たしかに、成績で進める学校は分類されます。成績が悪ければ、学校を変える場合もあります。しかし、その後の進路は複線化されており、悲観する必要はありません。(現地の方より、勉強が苦手な生徒は早い段階から手に職をもつような教育となります。労働者ではなく、職人となるための教育と言ったらいいかもしれません。)

また、一度ドロップアウト(不登校や退学など)しても、年齢に関係なく教育を受け直すことが可能です。

⇒日本では大学無償化の動きがあるが、年齢制限があると伝えたところナンセンスだと一蹴されました…

Q.ランキングにこだわらない教育へと転換が図られると聞きましたが?

A.(まだ学校には具体化されていない様子)全体の成績だけでなく、科目別の成績に応じて、クラスを選択することができるようになります。より個々の能力に応じた教育になっていく事は間違いありません。

Q.変化が多いと、反対の声もありませんか?
A. 時代に合わない教育を受けてしまえば、将来経済的に自立をしていくのは困難です。常に次の世界を生き抜くために必要な教育を考えています。特に産業と教育の未来を重ね合わせていくことが重要で、GDPの推移や産業構造の変化を見据えて、7~10年おきに見直しを図っています。変化するのは当然です。

Q.教員は変化に対応できますか?
A.方針転換の前に、パイロットケースを見せながら3~4年のスパンで転換します。もちろん教員のサポートは充実させます。余談ですが、こちらでは民間で働いた経験がないと教員になれません。これも産業と教育を重ね合わせることに一役買っています。

Q.海外から教授を招聘し、また留学生の受け入れも盛んであると伺います。
A.シンガポールには、人しか資源がありません。ですので、より質の高い教育をできる人材が必要になります。シンガポールで学び巣立っていく人が、世界で活躍するも良し、いつか帰ってきてシンガポールの発展に貢献するならなお良し。これらを国民にも説明し、理解を得ることができるように努力しています。

Q.障がいのある方への教育はどうですか?

A.専門の教育機関(日本でいう特別支援学校)があります。

障がいのある方向けトーレニング施設はオープンで明るい場所でした。

※障害のある方のトレーニング施設も伺いましたので、こちらは後日詳しく書きます。

シンガポールほどではないにしろ、日本も資源が乏しく、マーケットも大きくはありません。日本にも「人」しか資源はなく、教育にもっともっと力をかける必要があります。国家予算の20%を教育にかけるシンガポールに対し、日本はたったの5%…正直に言って、教育に関しても日本は世界から取り残されていると痛感することになりました。

文部科学省では、「Society5.0に向けた人材育成」が提言され、東京都では「2040年代の東京を見据えた長期計画」が検討されています。改めて世界の中での日本の現在地を確かめ、次の時代を見通した教育改革の必要性を訴えてまいります。


編集部より:この記事は、東京都議会議員、奥澤高広氏(町田市選出、無所属・東京みらい)のブログ2019年5月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおくざわ高広 公式ブログ『「聴く」から始まる「東京大改革」』をご覧ください。