テレビ離れ・スマホファーストの令和時代におけるNHKのあり方
きのうに引き続き、放送法改正案と公共放送のあり方について石田真敏総務大臣、上田良一NHK会長等と衆議院 総務委員会にて議論した際に述べた私の考えを述べます。
テレビ離れ・スマホファーストが進む、令和時代におけるNHK財源と受信料負担のあり方、OTT(Netflix、Hulu)への対抗策などついて伺いましたが、残念ながら新たな戦略やビジョンが全く描けていない現状が浮き彫りになりました。非常に残念なことです。
機会があれば衆議院インターネット審議中継における直接のやりとりも是非ご覧いただければと思いますが、今回の主要な論点について下記に記載をさせて頂きます。
通信と放送を融合したサービスは、これまでも段階的にできるようになり、本改正案においても常時同時配信を可能とすることになりましたが、これを扱う新しいビジネスモデルが日本においてはしっかりと構築できていないことが大きな課題であります。
しかしながら時代の流れは早く、若年層を中心にファーストスクリーンがスマートフォンになり、テレビ離れが起きている現状があります。
総務省の放送をめぐる諸課題検討会において示された資料では、2005年に98.9%であったカラーテレビの普及率は、2015年には95.7%まで下がっております。
また世帯主が29歳以下の世帯に限れば84.7%にまで落ち込んでおり、テレビ離れが進んでいく流れが顕著であり、この傾向は世界的にも同様であります。
その一方で、今後さらにスマートフォン等などテレビ以外の受信機しか持たない人の増加が予想される中、中長期的に見れば現在のビジネスモデルでNHKを維持していくこと、時代のニーズに合わせた転換を図らなければなりません。
日本だけが行っている公共放送におけるインターネット活用業務経費の上限規制
NHKは現在インターネットの活用業務の実施基準においては、受信料財源業務の実施に要する費用の上限を受信料の2.5%としております。
これは民放連等がNHKの肥大化、民業圧迫等を理由に、常時同時配信が行われることになったとしても、この2.5%の上限の維持を求めていることに配慮していることが大きな要因であると伺っております。
民放の皆様のお気持ちは一定理解をいたしますが、このように公共放送におけるインターネット活用業務に要する経費の上限規制をかけている諸外国の事例は、私の調査でも政府の調査でも存在しません。
放送と通信の融合する新時代において、他国には事例がない日本特有の変わった規制でこれからどんどんと視聴者が増えるであろうネット戦略にかける予算に対して上限をかけることに私は違和感を感じます。
世界の例を見るとイギリスのBBCは2017年にインターネット活用業務に要する経費として約408億円。全体に占める割合としては7.58%の予算規模で事業を進めている現状がある中で、日本のNHKに関しては今後も2.5%の上限を維持するのか、それとも方針転換を行うのかについての方針に関する見解を石田大臣・上田会長がそれぞれに伺いましたが、まともな答弁が返ってこず、はぐらかされるばかりで非常に残念でした。私的には上限の拡大、撤廃はあってしかるべきだと思います。
インターネット活用業務におけるNHK・民放の連携
国民・視聴者の目線で見ると、公共放送、民間放送の区別なく、とにかく質の高い番組を見たいというニーズがあります。
そうした中、政府・NHKは民放のことは大事にするけれど、国民は大事にしないと誤解を受けるような姿勢はよくないと考えますし、NHK、民放の両者がただ自分たちの利益のためにつば迫り合いをしているように誤解を受けてしまう状況も得策ではないと思います。
慶應義塾大学の中村伊知哉教授は、「例えば、ネット業務のためにNHKと民放の共通の基金を作るなど、次の市場、次のメディア環境をどう作っていくかを議論してほしい」と述べられております。
この意見には私もまったく同感であり、2.5%の上限を設けて発展の足を引っ張り合うような対策ではなく、むしろ、民放との共同事業にNHKが積極的に投資することで、民放とのWin-Winの関係を築く方が、海外の事業者との競争においても有益です。
現在、大手キー局が中心に立ち上げたプラットフォームである「Tver」がありますが、今回の放送法改正案で他の放送事業者との協力が努力規定とされたことも踏まえて、費用面も含めてNHKが積極的に参加していくことが必要だと考えます。
次の市場、次のメディア環境を作る目線で、民放との共有基金の組成やインターネット配信プラットフォームの構築に際しては、NHKからも積極的に投資を行い、民間と共同してグローバルマーケットで戦うことのできる建設的な事業戦略を描くことが必要です。
公共放送と民間放送の連携によるOTTへの対抗策
地方放送局は、キー局が地方局を通じて番組を全国放送し、地方局が広告収入を得るとする、全国系列ネットワークのビジネスモデルを展開しております。
そうした中、NHKの常時同時配信に民放のキー局が追随して、配信エリアを制限せずに、ネット上で多くの番組を流すことになると、地方のユーザーも視聴可能になるため、地元企業等の広告収入で成り立っていた地方局のビジネスモデルが崩れる可能性があり、NHKはこれに関連して「コストや運用体制の面」から地域制限を行うこととしており、民放連もNHKが常時同時配信を行うに当たって重視すべき事項として「地域制限」を挙げております。
しかしながら本来インターネットは、ネットワークを通じて世界を結び、情報の共有を行うことを利点としている技術であり、誰もが番組を見ることができる状況を阻害し、わざわざ地域制御を行うことは、インターネットの利点を潰してしまいます。
そしてまた、Netflix、hulu、Amazon Prime等のOTTと呼ばれる海外の事業者が、世界的に非常に強くなっている中、どのように対抗していくのかという対応策を求められている中で地域制御で、わざわざ作ったコンテンツを抑制するような対応は非常にピントがずれているように感じます。
OTTは、近年日本においてもその巨大な資本を生かした良質なコンテンツの製作により、動画配信サービスを展開しており、テレビ離れが進んでいる若者を中心に視聴する人が多くなっている現状があります。
世界的にコンテンツ提供のゲームルールが変わっている状況を踏まえれば、インターネット鎖国でもしない限りは、既存の放送局が行っていたビジネスモデルがあと何十年も長きに渡って継続できないことは想像に容易い現状があります。
これに対し、英国等では、国策として公共放送と民間放送が協力して動画配信サービスを行うことにより、海外展開を行い、収益を上げていくことでOTTに対抗しようとしております。
日本においても地域制御というナンセンスな対策ではなく、NHKと民放の両者が協力し、OTTに対抗していくような対策を講じること必要です。
インターネット配信は、地方ならではの特色ある番組(コンテンツ)を作成して、我が国に限らず全世界に提供することが、地方の自然、文化、暮らし等の情報を広く紹介できる良い機会にもなると考えますので、地域制御をやめて広くロングテールで製作したコンテンツを配信していくべきです。
NHKのガバナンス改革と経営努力が必要
公共メディアであるNHKの存続について私は必要だと考えておりますが、受信料の議論を行う際にはそもそも論として、「NHKが必要か?」という根本的な問いに応えられるような体制整備が必要であると考えますし、「受信料は取るが、視聴者の声は聞かない。」と思われるような姿勢では国民の理解は得られないと思います。
「政府が右と言ったら、われわれが左と言うわけにはいかない」というような発言をされた会長がおられましたが、政権党の忠実な信奉者を執行部入りさせて政府にとって都合の悪いことには触れず、都合の良い方向に情報発信を行う国営メディアだと誤解をされることがないように更なる改善を図って頂きたいと考えます。
中谷 一馬 衆議院議員 立憲民主党
1983年生まれ。横浜市出身。IT企業「gumi」(現在、東証1部上場)創業参画を経て、2011年神奈川県議選(横浜市港北区)で民主党から出馬し初当選。2度目の国政選挑戦となった2017年10月の衆院選は立憲民主党推薦で神奈川7区から出馬、比例復活で初当選した。公式サイト