2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果に陥った。
社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延した。その後、成果主義を効果的に定着させる理論としてEQ( Emotional Intelligence Quotient)がブームになる。
今回は、『こころの予防医学~偽りの仮面を投げ捨てて自分らしく生きる方法~』(ギャラクシーブックス)を紹介したい。著者は田倉怜美(たくら・さとみ)さん。
「自己肯定感」という切り口について
私は、当時、EQJapan(ディレクターとして、営業、ソリューション、プロファイラー等の統括)という組織に所属していた。この組織はEQ理論提唱者と共同研究をしていた世界唯一の研究機関になる。この頃はEQ理論を普及させる活動にまい進していた。その後、EQブームは収束していったが、新たな理論が台頭する。
「自己肯定感」は、EQ理論から派生した理論と認識している。「自己肯定感」は、EQでいう、私的自己意識と抑鬱性がミックスしたもの。これらを上手くコントロールするには、楽観性やセルフエフィカシーが必要になる。炙り出すだけでは解決にはならないが、それを形成している阻害要因が特定されれば打ち手を見つけることは難しくない。
では、自己肯定感とはなにか。子どものころであれば、親やまわりの大人たちが注いでくれた愛情や肯定の言葉、承認の態度がある。愛されて育った人は、自己肯定感が強いことが多い。逆に自己肯定感が弱い人が、周囲に肯定承認を求めてもうまくいかない。
自己肯定感が弱いとネガティブに落ち込んだり、不安になることがある。さらに、自己否定をして、自己肯定感を弱める悪循環に陥ってしまう。そんなとき、ポジティブに考え直すことができたら、自己肯定感を強めることができる。
問題が発生すると人はネガティブな意識に陥りやすい。しかし、問題が発生しても、「これは自分らしく生きるために必要なことだ」と転換すれば心が楽になる。間題とは、それを感じる本人が自らつくり出すもので、自分がより自分らしく生きられるように起きるものと考えることができる。すべての問題は自分の捉え方なのである。
断る勇気を例にして考えてみる
断りたい。気乗りしない。言われるがままになってしまう、そんな断り下手の人はとても多い。「嫌われたらどうしよう」「気まずくなったら嫌だ」。そんな不安感から断り切れずに、流されてしまう気持ちがわからなくもない。田倉さんは次のように解説する。
(田倉さん)「誰だって波風を立てたくはないものです。けれども、そのままずるずると流され、行きたくもない誘いに乗ったり、本当は賛同できないのに賛同するふりをしたりする日々のままで本当に良いのでしょうか。心の底ではその生活にさよならしたいのではないでしょうか。本心では、変わりたいと変化を望んでいるのだと思います」
(同)「変わるためにはまず、なぜ断りたいと思っているのに、断ることができないのかを考えましょう。断れない人のほとんどが『自分に自信を持てない』と言います。自己肯定感が低いため、自分の意見を言うこと、他の人とは異なる主張をすること、他の人の誘いを断ることに対してどこか罪悪感や申し訳なさがあるように思えます」
自己肯定感が低いため、自分よりも人のことを優先してしまう。それが断れない行動としても表れてしまう。まずは、自分の好きなところを自覚することが大切である。
(田倉さん)「自分の価値を認めると、自分を後回しにし、おざわりにすることが減ります。周りの人と同じように、自分のことも大事にできます。そうした習慣を繰り返すことで、だんだんと『自分の意見も言っていい』『断ってもいい』と自分の行動に許可を出し、少しずつ習慣を変えることにつながるはずです」
そこでオススメしたいのが、簡単な精神ストレスの対処法になる。今回紹介する、「ストレスコーピングの入門書」には、田倉さんのカウンセラーとしての思いが詰まっている。世の中には、ムダなメソッドが多すぎる。こういうムダにコストをかけるなら、本書を読みながら自分の気持ちに問いかけたほうが、はるかに効果的であると申し上げておきたい。
[本書の評価]★★★(70点)
【評価のレべリング】
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し 「レベル0!読むに値しない本」50点未満
※評価のレべリングについて
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)を上梓しました。