欧州議会選挙はEUの転機か?

5年に一度の欧州議会選挙が23~26日に行われました。まだ最終が出ていませんので報道も少ないようですが、当初の予想通り、中道右派と中道左派による安定時代から多政党化が進み、EU一体化に対する様々なボイスを真摯に受け止めなくてはいけない時代になったようです。ただ、フランス マクロン大統領が推す共和前進が現在第三党であるALDEに合流する見込みで最終的には第一党から第三党を中心とした連立で欧州議会運営は乗り切るのではないか、と見ています。

欧州議会選挙暫定結果(2019年5月28日 欧州議会公式サイトから:編集部)

欧州議会選挙暫定結果(2019年5月28日 欧州議会公式サイトから:編集部)

中道右派(EPP)は2014年の際は221議席だったものが今回は177議席、第二党の中道左派(S&D)は前回の191議席に対して150議席となり、両派合わせて412議席から327議席へ減少、全議席数の比率でみると54.9%から43.5%となっています。いわゆる連立与党の過半数割れであります。ただ、上述のALDEが107議席取りましたのでこれを合わせれば63.2%となり、議会運営は安定するでしょう。

国別でみるとやはり目立ったのが英国のブリグジット党が第一党となり、残留派の自由党が第二党となったことでしょうか?二大政党の中心だった保守党や労働党は下に追いやられています。フランスもルペン氏率いる国民連合(RN)が第一党、マクロン大統領率いる共和党前進を押さえました。

イタリアは極右の同盟が30%を確保、最大議席数のドイツは中道のCDUとSPDの支持率が前回に比して大きく下げているものの体制は維持できている模様です。注目された極右のAfDはさほど伸びていない模様です。

さて、この傾向をどう見るかですが、私は欧州に限らず、世の中全体の最近の傾向が虚実に表れていると思います。平易な例えをすると「総合雑誌より専門雑誌が読まれる時代」と申しましょうか?

かつては男性もの、女性ものの総合週刊誌はよく売れたものです。が、今はそれよりももっと的を絞ったものを求める傾向があります。理由は総合誌は分析が浅く、読者を満足させられないのだろうと思います。その背景はもちろん、無料の情報が瞬時に誰にも均等に届くという背景があります。同様にファミレスよりも料理にこだわる専門店という流れもあります。「百貨」店という名のデパートより専門店に行くのも同じでしょう。

この結果、広く薄い知識よりも狭く深いものをもとめ、それが人々の行動規範にも表れてきていないでしょうか?いわゆる劇場型選挙はある意味、究極の一点について是非を問うわけでほかに考えなくてはいけない99の項目は横に置いておく、という発想です。それはフェイスブックの「いいね」も同じである意見について「いいね」を押してもその人全体を肯定しているかどうかは問わないのです。

専門家は今回の欧州議会選挙の動向について「現状の否定」と評しています。現状の否定という表現が妥当かは個人的には懐疑的ですが、少なくとも「我慢できなくなった」という傾向が強く押し出されてきています。

EU28カ国はつい75年前までは長い戦禍に見舞われた国々です。そこには民族的問題が常時横たわり、強いナショナリズムが各々の国家にありました。が、悲惨な二つの大戦を経て「もう止めよう」と思い立ったのがEUの前身であり、アメリカに対抗するUNITED思想の発祥地点であります。

これが今になって変化しつつあるのは75年経って時代の循環と考えるべきなのか、強い紐で結ばれた関係に嫌気がさしたのか、あるいはそれをしっかり引っ張るリーダーシップの欠如なのか、様々な見方はできると思います。ただ、はっきりしていることは英国は期待できず、メルケル首相は先が見えているし、マクロン大統領の支持率は最悪期を脱したもののやはり不人気であることは変わりません。

むしろ周辺国であるイタリアやハンガリーあたりのボイスが気になりだしたというのが現状ではないかと思います。

ただ、三歩ぐらい下がってこの問題を見ると多くの国が掲げる問題はほぼ移民問題に集約されます。かつて欧州の金融危機があり、ギリシャなどが苦しんだ際、一部ではEUの制度疲労などとも言われましたが、EUの根本的結束力は衰えなかったと思います。仮に移民問題を解決することでEUの結束力を維持できるならその解決に全力を施し、EUを維持することに努めるべきでしょう。

今年はトゥスク欧州理事会議長、ユンケル欧州委員会委員長が改選となります。新たなリーダーシップが欧州を結束させるか、壊すか、真価を問われることになりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月29日の記事より転載させていただきました。