CANVASを柱とする吉本☓NTTの超教育事業

吉本興業・NTT・クールジャパン機構による超教育配信プラットフォーム「ラフ&ピース マザー」。
ネットフリックスやアマゾンのような海外向けプラットフォームができなかった日本が、教育という分野で挑戦する。
しかも国策ファンドから100億円の出資を得て。えらいことです。

そのコンテンツはぼくらが17年やってきたCANVASの創造力・表現力学習、遊んで学ぶ、を基にするとされました。
ぼくらデジタルキッズの活動が17年を経て、ようやくNTTなど大人に認知され、100億円の値がついた、ということでしょう。

PCでアニメやゲームを作る。プログラミングでロボットを作る。
デジカメやウェブで町のCMを作って発信する。
未来のクルマや未来の学校を設計する。
みんなで、つながって。
各種ワークショップを集めた「ワークショップコレクション」は、2日で10万人が集まる世界最大の子ども創作イベントに育ちました。

課外ワークショップはできる。
でも学校の壁は厚い。
だから教科書をデジタルにしよう。
デジタル教科書教材協議会DiTTを作り、抵抗勢力とドンパチやって8年、昨年ようやく法律が改正され、デジタル教科書の制度が実現しました。
プログラミング教育の必修化も決まりました。

でも課題は2つ。
活動を進めるための資金的な裏づけ。ぼくらはおカネとは無縁でした。赤字赤字赤字赤字。
そして海外展開。国内の制度や空気を換えるのにヒイヒイ言ってました。
だけど、学校への導入という山を超えたので、次を設計するタイミングでした。

しかも、テクノロジーが新時代を迎えました。
デジタル(PC+ネット)からスマート(スマホ+ソーシャル)、そしてAI+IoTの超スマートへ。
教育も「超教育」が求められるタイミング。
これを進める母体として「超教育協会」という団体も去年設立され、4月からDiTTも合流しました。

そこでプラットフォーム「ラフ&ピース マザー」の発足です。
100億円という資金的裏付けと、海外展開という、2大課題をクリアする取組が始まることとなったのは、流れ上、必然ではないかと感じています。

リーダー石戸奈々子さん(CANVAS理事長、超教育協会理事長、慶應義塾大学教授)「世界中の多様な価値観、文化の人と協働しながら新しい価値を作る力。新しい技術を使った思考・想像型の教育。おもしろく楽しく学ぶ、自分のやりたい、なりたいを大事にすることを、このプラットフォームで実現したい。」

始まりは、ぼくが石戸さんを吉本の大崎社長(現会長)に紹介したこと。
CANVASと吉本は実に相性がいい。
実はCANVAS創設に当たり最初に相談したのが吉本興業なのです。
漫才ワークショップをやってほしいというお願いでした。
ドツいて人を笑わせる高度なコミュニケーションをモデル化し、輸出したい。

これまでワークショップには、ペナルティ、トータルテンボス、レーザーラモン、くまだまさし、2700、天竺鼠、鉄拳、さまざまな芸人が参加し、さすが天才集団、親和性の高さを立証してくれています。
6000人の芸人が寄り合って才能を発揮するNPOのようなものなのです吉本は。

「吉本は教育の会社になる」と明言する大崎会長。
ぼくはもともと吉本は他に行きどころがない連中を芸人になるという催眠術にかけて鍛え上げる教育企業だと見ていますが、それをいよいよ外に力を発揮するビジネスに換えるということでしょう。そこでCANVASに目をつけた。

大崎会長は石戸さんに「CAVASちょうだい」って言ったら石戸さんが「いいですよ」と即答したという。
大親分同士というのは、そういうものなのでしょう。
既に2019年3月には新宿の小学校跡地にある吉本本社でもワークショップコレクションを開いています。

CANVASの知見を基に、全国47都道府県にいる吉本「住みます芸人」を動員して、ワークショップを開いていく計画もあります。そのための常設施設を設ける計画も。
世界中のチルドレンズ・ミュージアムを巡り、日本にないことを嘆いてきましたが、ようやくアクションが起こせそうです。

MITでプログラミングなどデジタルキッズ活動と関わり、創造・表現のSTEAMは日本の子どもたちのほうが刺激的なアウトプットを出すと考え、日本でワークショップやデジタル教育を推進するようになって17年。
やっと認知されるところまで来たと感じています。

ワークショップコレクションの会場として使っていた慶應義塾大学からは、人数が多すぎるなどを理由に追い出され頭を抱えていましたが、国を含めこうして理解を示す大人や、ホスト役を買って出る九州大学など理解者も広がり、ようやく次のステージです。

そして令和。
テクノロジーも刷新です。
NTT澤田社長が言うとおり、5GにAR、AIにIoT。
この30年、教育はテクノロジーから距離を取ってきました。
ですが本来、教育とテクノロジーは近い。
「マザー」を母体に、教育☓テック=超教育を進めたいと考えます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年5月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。