依存症の自助グループをもっと理解して欲しい

田中 紀子

6月1、2日の土日で、ギャンブル依存症者の家族の自助グループの1年に一度の集会があり、私もこの集まりに参加してきました。

年々盛大になっていくこの大会ですが、知らない人が見たら、参加者が実に明るく、「本当にこの人達は、ギャンブルの問題で悩んでいる家族なの?」と思われることでしょう。

話している内容はもちろん「離婚」「借金」「横領」「失踪」時には「自殺」と、実に深刻なのですが、それを乗り越えた人達が過去を振り返り、「今は、こうして明るく前向きに語れるようになった!」という現実への感謝を伝えています。

もちろん当事者の問題が解決している人もいない人もいます。
でも当事者がどうあれ、自分たちは巻き込まれずに幸せに元気に生きることができる!
そんな生き証人たちの集まりなんですね。

私は、この2日間、希望のメッセージをシャワーの様に浴び、「日本はもっと依存症の自助グループを理解し、社会全体で有効活用して欲しい。」と、つくづく思いました。

なんせ自助グループというのは、お金がかからないので社会負担費が一切なく、依存症者とその家族を世界で最も多く救っている組織ですから、国民にとっても大メリットです。

今日は、一般の人達からよく言われる自助グループの誤解について書きますので、
偏見や誤解を払しょくして頂けたらと思います。

1)傷のなめ合いではない

日本の依存症自助グループの主なものは、

となっていて、同じ経験をした人達が集まっています。
参加者の条件はただ一つ、当事者であれば自分がはまっている依存物、依存行為を「やめたい」という気持ちがあるか?
家族グループであれば、自分が当事者の依存症問題に影響を受けているかどうか?です。

まずは「ミーティング」と呼ばれる、分ちあいの場に参加して貰うのですが、これは決して「同病相哀れむ」といった、傷のなめ合いではありません。「傷の治し方」について、自分自身が理解していく場です。

「確かに依存症という病気にかかったことは不幸かもしれない。
自暴自棄にもなるし、周囲の人達を傷つけてしまい、そこに向き合うことが怖いかもしれない。
けれどもここから抜け出さなくてはならないことは分かっている。だったらどうしたら良いだろう?」という「自分はどう行動すべきか?」という問いに、常に向き合っている場なのです。

そしてそれを仲間の前で話し、仲間は黙って聞くだけです。
気付きは常に自分主体であって、誰かに説教されたり、強要されるものではないのです。

2)依存が止まることは始まりに過ぎない

よく依存症系の学会でも話題になるのですが、依存症の回復の定義というのが、医療と我々当事者・家族では全く違います。

医療は要するに依存行為が止まれば「回復」と見るわけで、学会でも「何日間止められているか?」ということが発表されます。

けれども我々は「止まるのは始まりに過ぎない。」と考えています。
私たちの主眼は「生き方を変えること」にあります。

私たちは、何故、依存症になってしまうほど、何かにのめり込む必要があったのか?
のめり込むことで忘れてしまいたい、現実とは何だったのか?
自分と他者を傷つける考え方とはどういったものか?
その根本原因を徹底した正直さで見つめ生き方を変えるのです。

例えば、重篤なトラウマがあれば、それを癒し、考え方のゆがんだクセがあればそれを改善し、不健康、不適切な人間関係があるのならそれを断舎離する。何年、何十年前であろうと、自分の心を罪悪感でいっぱいにしているような傷つけた人がいれば、その人に対して謝罪しに行く。

こういった心の中の徹底した大掃除ができる「12ステッププログラム」と呼ばれる回復プログラムがあり、それはそんじょそこらの認知行動療法のようなものとは、厳しさも内容の濃さも全く違います。12ステッププログラムには「絶対的な正直さ」「絶対的な無私」「絶対的な潔白」「絶対的な愛」という、4つの絶対性が必要と言われています。

3)社会への好循環

自助グループをまるで「社会的なお荷物の集まり」の様に思われている人々がいますが実際は全く違います。
特に、12ステップグループは、自分たちの献金以外、外部からの寄付や助成金を一切受け付けず自立しています。

そして自助グループメンバーは当事者も家族も、殆どの人が職業と家庭を持ち、ただでさえ忙しい日常を過ごしていますが、その上さらに自助グループの活動を行い、同じ依存症問題で苦しみや悲しみを抱えた人達を助けだしているのです。

また、自助グループの活動をしながら、さらに我々のような民間団体を立ち上げ、2つの活動を行うメンバーも少なくありません。特に欧米ではこの「二つの顔」を持って活動することが盛んですが、日本も段々そのやり方が浸透して来ました。

つまり、自助グループメンバーは、普通の人達よりとんでもなく忙しく、タフです(笑)
そこには社会貢献への「絶対的な無私」と「絶対的な愛」がなければ、こんなことやり続けられません。

依存症などというまだまだ「自業自得」感の強い精神疾患についてですよ、自らが活動することってそれだけで勇気も要りますし、傷つき、報われないことだらけです。それでも自助グループのメンバーたちは、世界中で誰かを助けるべく無償の愛で東奔西走しているのです。

社会のお荷物どころか、どれだけ社会貢献を果たしてきたことか!
特に、我々ギャンブルの自助グループは、結果的にギャンブル産業の責務まで、無償の愛で担ってきたと言っても過言ではありません。

と、このように社会にとって自助グループは、利用しない手はなくメリットしかありません。
しかしながら、日本ではまだまだ偏見も強い上に、広報や啓発も足りていません。やっと少しずつ始まってきましたが、欧米諸国ではこの自助グループについて、行政はもちろん、メディアなども盛んに取り上げてくれ、広報や啓発に一役買ってくれています。

また日本の様に、専門家偏重主義で自助グループが下に置かれたりしないので、自助グループにはアーティストなどの著名人やセレブも沢山回復しています。どんな人たちでも繋がりやすい社会の雰囲気があります。

どうかこの依存症の自助グループの有用性を多くの方にご理解頂き、一般の方々からも啓発や広報にご協力のほど、宜しくお願い致します。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト