議決権行使基準:独立社外取締役の「2人」と「3人」の差は大きい

日経イブニング・スクープ(6月4日)「社外取3分の1未満なら反対 機関投資家、監視厳しく」を読みました。指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社の機関形態をとる上場会社には、国内外の機関投資家が「取締役数の3分の1以上の独立社外取締役の選任」を要求し、これを満たさない企業では代表取締役候補者の取締役選任議案に反対票を投じるそうです(議決権行使基準の改訂)。

東証が5月に公表した「ガバナンス白書2019」の80頁以下を読みますと、監査等委員会設置会社の独立社外取締役の数も若干増えているとは思いますが、上記記事によりますと、17年度のデータでみて指名委・監査委設置会社でも、社外取締役の比率が3分の1に満たない企業が半分近くを占めるようです。

したがいまして、おそらく300社~400社程度の監査等委員会設置会社の組織形態をとる上場会社では早急な対応が求められるはずです。国内の機関投資家についてもスチュワードシップ・コードの実施を宣言しているところが増えていますので、来年の定時株主総会あたりでは(外国人株式保有比率に関係なく)なんらかの経営判断が求められるかと。

対応として考えられるのは、

①ガバナンス・コードの趣旨を実施する方向で、独立性基準を満たす社外取締役を1名以上追加選任する(監査等委員以外の独立社外取締役を新たに選任する)

②社外取締役の数が3分の1以上になるように社内取締役の数を減らす(執行役員に移行させる)

③ (先日の大塚家具さんのように)「監査等委員会設置会社」から「監査役会設置会社」に逆戻りする(定款変更議案を上程する)

東レの日覺社長のように「ガバナンス・コードはおかしな指針。うちはモニタリングモデルではなくマネジメントモデルでいく!」と宣言して無視する

のいずれかでしょう。

おそらく①の選択肢をとる上場会社さんが圧倒的に多いと思いますが、そうなりますと独立社外取締役がボードに3名、ということになります。これまで社外監査役だった方が横滑りで2名社外取締役に就任している間は平穏でしたが、「元経営者」の社外取締役がおひとり追加選任された場合には、「取締役会の風景」は大きく変わりますよね。

会議室の隅っこで社外取締役が二人でコソコソ内緒話をしていても気になりませんが、さすがに3人での内緒話は社長も気になります(笑)。構成員7名の取締役会(監査等委員会設置会社なので監査役はいません)で、3人が異論を唱える風景を想像してみてください。取締役会の前に開催される「経営会議」では(社長に忖度して)異論を唱えなかった社内取締役がひとりでも賛同すれば経営判断の見直しを迫られるわけです(実際には社外取締役が3人いると、3人の意見が一致することは少ないのです。だからこそ、3人の意見が一致することは社内取締役にとってはインパクトが非常に大きい)。

また、多数決で経営判断を押し切ったとしても、M&Aに失敗して減損を余儀なくされるようなケースだと社長の法的責任を追及されるようなツライ状況が目に浮かびます。これを迅速な業務執行の阻害要因と捉えるか、健全なリスクテイクの実践と捉えるかは会社次第です。

監査等委員会設置会社の運用実績(たとえば、どの程度の比率の会社が指名委員会等設置会社に移行したのか、社外監査役から横滑りした方がどのくらい交代したのか)の様子をみていた議決権行使助言会社も、そろそろ3分の1基準を実施するのではないでしょうか。ボリュームの最も大きな監査役会設置会社には関係ないかもしれませんが、私はこの「独立社外2名→3名」の流れがガバナンス改革の大きなターニングポイントになる(結果をみなければ成功か失敗かはわからない)と予想しております。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。