イギリスからみた日本のテレビ、その未来(前編)

民放連の調査で英国を訪れました。ぼくが座長を務める「デジタル・ネット研究会」の一環で、キー局・ローカル局混成チームにより、英国のテレビ☓ネットを見聞したのです。日本のテレビにとって、UKが最も参考になるモデルと考えた次第です。

島国として方やEU大陸に、こなた中国に向き合い、互いにGAFAに苦しむ二国。
ブレグジットが国内も対EUも折り合いがつかず、首相がビッグベンと仏ストラスブール(欧州議会)を行き来し、ロンドンのタブロイドには「メイのバカ」という文字が踊るさなかでした。

テレビは似ています。公民二元体制:NHK/BBCと民放。キー局とローカル局の併存。そして映像はテレビが面白く娯楽の中心で、産業としてもさほど傷んではいない。けれどもネットフリックスなどOTTはそこまで侵入してきている。

相違点もいくつかあります。キー5局の競合は日本が激しい。イギリスは事実上、ハード・ソフト分離だが日本は電波と番組の運営は一体。アメリカの脅威は言葉の壁があり日本はまだ緩い。超高画質の4K8Kは日本が先行。ネット同時配信やデータ利用はイギリスが圧倒的に先行。

折しも日本は国会でNHKのネット同時配信に道を開く放送法改正の審議が始まろうとしていました。BBCが同時配信を始めたのが2008年、日本は・年の開きがあります。英国は米IT+TVが2006年に映像配信に打って出る否や防波堤を築いたのですが、日本はそこまで対応せずに済んだ、という構図です。

放送局(キー局、ローカル局)、ケーブル、配信、VOD(ビデオオンデマンド)、データ、広告などさまざまな企業や団体を精力的に訪れました。どこも丁寧に、いや、あけすけに、状況や戦略を共有してくれたのには驚きました。日本の放送局との親和性を読み取っているのか、連携の期待感が響いた次第。

この報告は民放連としていずれ整理される運びですが、取り急ぎ、ぼくが感じた点をざっくりとメモしておきましょう。深読み・朝読み・勘違いなどあると思いますが、それはいずれ正式な報告を待って訂正されたし。

まず英国テレビの状況。
業界人はテレビが圧倒的に強いエンタメと口を揃えます。若年層はリアルタイムのテレビを見なくなっているが、テレビの強さは維持。メディア視聴時間のうちテレビが76%で、オンライン・VODが20%。ネットが伸びているもののテレビは傷んでいない。

英国は一人あたりコンテンツ支払い額が世界最大で、メディア接触時間は2012~18年で557分→733分に32%増加。ゲームとコミュニケーションが上昇しているが、映像視聴も248分→261分に5%上昇している。

世代格差が広がっているのは日本と同様。
BBCの平均視聴者は2017年で61歳。上昇中。若者はOTT(YouTube、ネットフリックス、アマゾン)がTV(地上波、衛星、ケーブル、IPTV)の視聴時間を超えている。

TV局の番組の視聴時間(ライブ+録画再生+キャッチアップ+VOD)は減少している。2010年の一日当たり242分から2018年には197分へと低下。
オンライン、DVD、ゲームなどを含む映像視聴時間の合計に占めるTV番組の比率は全体では71%だが、16-34歳では46%.

だが、放送事業者の収入は横ばい程度を維持していることに注意。テレビのITサービスはオンエア番組のキャッチアップが圧倒的な比重。テレビ局は番組をデジタルで自由にセールスしている。
テレビ収入が横ばいで、ネット収入が高まっている構図。カニバっていないということです。

さて、その上で、今回の論点は3つありました。
プラットフォーム:ネット配信の総合プラットフォームは成り立つのか
IPクラウド化:ハード・ソフト分離を超え、IPのクラウド化へ進むのか
データ利用:AI時代にどう立ち向かうのか
10年後のテレビ局の構造を左右するこのポイントを探りました。
(つづく)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。