「採用のミスマッチ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。採用する企業と学生との間に認識のズレがあり、入社後にギャップが生じて、新卒社員が早期に離職してしまうことを指します。
新卒社員の3割が、3年で離職するのだとか。このミスマッチが生まれる理由は、おもに2つあると考えられます。
採用のミスマッチと2つの原因
(1)厳選採用への移行の失敗
近年の新卒採用は、学生を厳選しようという傾向が強くなっています。とりわけ強くなっているのは、有名大学出身の優秀な学生を採用しようとする意識。ところが、採用基準に適合しない学生でも採用しないと採用計画を充足できないため、不適合な人材が入社後にミスマッチを引き起こしているというもの。
(2)大学進学率の高まりと学生の質の低下
少子化による18歳人口の減少が続いています。ところが、大学進学率はこの20年間で倍増しています。新設大学が増えて学部も増加した結果、18歳人口が減少しているにも関わらず、学生数は増えています。
学生数を確保したい大学側が推薦入学やAO入試に注力した結果、学生の質が低下し、就職が困難になっているという指摘があります。企業が求める能力を有していない学生は就職の選択肢が狭くなり、希望する職に就くことができないため、ミスマッチが起こりやすくなっているというものです。
採用のミスマッチは存在しない
厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」では、昭和62年から現在までの離職率データを確認できます。規模・職種にかかわらず数値はさほど変わりありません。大学卒で見ても、30%台前後で推移していることがわかります。
ミスマッチは、昭和40年代の高度経済成長時代から社会問題として取り上げられていました。ところが、当時の数値と現在の数値にそれほどの乖離は見られないのです。ところが、就職情報会社は、「3年で3割も辞めるんです。だからミスマッチです!」と強調します。では、各国の基準と比較してみましょう。
○アメリカ労働統計局によれば、大卒者が32歳までに平均8回転職することが明らかになっています。
○イギリス国家統計局のデータでは、大卒者が入社4年以内に3回以上の転職をする割合は「男性22.7%、女性26.4%」です。
○大韓民国統計庁によると、大卒者が初めて入社した会社の平均勤続年数は2年未満、3年後の離職率は7割を超しています。
各国の調査結果は調査項目が統一されていないため比較が難しいですが、少なくとも日本のミスマッチとされている基準(3年3割説)が高いとはいえません。各国の数値と比較しても高くないということは、日本のミスマッチがそもそも間違っているということです。ミスマッチがクローズアップされることに意味がありません。
さて、6月6日に14冊目となる、『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を上梓しました。エントリーシートの書き方に困った学生、学生の志望意欲を高めたい採用担当者にオススメしたい本です。
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)