参院東京2019シリーズの過去記事はこちら
①死のグループリーグに活路はあるのか
②東京に維新のマーケットはあるのか
参院選東京選挙区の続きを書こうと思っていた矢先、このほど小説からの引退を表明した百田尚樹さんがツイッターで、山本太郎氏について「落選させたい筆頭です。というか、落選させなければならない人物です」と述べたそうでスポーツ紙のネットニュースにも取り上げられていた。
サンダースを彷彿させる驚異的な集金力
筆者も、山本氏のことは永田町で「落としたい」議員のトップ3に入るから、この百田さんの思いには共感はするが、週刊誌などが報じている各党の調査からすると、残念ながら山本氏は落選どころか、中位〜上位当選もありうるだけの支持を堅調に伸ばしているらしい。
特にこのビジネスジャーナル(BJ)に先日掲載された東京選挙区の情勢記事は、自民党だけでなく野党の情勢調査の数字も入手しており、筆者も似たような傾向は政界関係者から聞かされてはいた。
来月の参院選、山本太郎議員が“台風の目”に…各党がその動向に戦々恐々の理由
BJ運営会社のサイゾーは左派的な記事も多いが、タイトルのように「山本太郎旋風」は大げさではない。山本氏は、自由党を解党して国民民主党に合流した小沢一郎氏と袂を分かち、再び「ひとりぼっち」に戻って落選の危機かと期待したのだが、街頭やネットで募った寄付金は16日現在で2億円の大台も目前という。
政治家への寄付文化に乏しい日本では驚異的な金額。2016年米大統領選で、民主党左派のサンダース氏が小口献金主体で数百万ドルを集めたムーブメントを連想させる。ここまで来ると、単に俳優出身で知名度があるからとか、炎上上等のパフォーマンスをやっているからということでは片付けられまい。
類似した共産党などと何が違うのか?
東京選挙区の主要候補者で先日整理したポジショニングでも、図のように大枠では左下の「大きな政府×リベラル」のゾーンに振り切り気味とはいえ、レッドオーシャンではある。特に共産党(吉良佳子氏)とのスタンスは一見似通って見える。
しかし、よくよく考えてみると、共産党と明らかに違うのが2点ある。しかもこれが山本氏の独自性と時代性を際立たせて、不思議な支持に結びつけているように思う。
一つは、経済財政政策で、山本氏のブレーンは立命館大学の松尾匡教授だ。日本の経済学界でも異色の反緊縮論者で知られる。だから例えば消費税についても「廃止」と際立つ。共産党も昔は廃止を叫んでいたが、2019年現在の公約では増税中止は言っても廃止までは記載していない。立憲民主党に至っては、枝野代表らが民主党政権時代に自民・公明と「社会保障と税の一体改革」で増税に合意した経緯があり、なおさら開きがある。上下を「緊縮⇆反緊縮」左右を「護憲⇆改憲」でざっくりしたポジショニングはこちら。
金融政策についても山本氏は、日銀が国債を買う財政ファイナンスにはMMT的な積極性がある。その点、共産党は意外だが、「過去の歴史をみても高インフレを起こさない保証はない」(大門実紀史氏:赤旗より)と述べるように、慎重なところがある。
他にも「最低賃金1500円」「奨学金チャラ」をはじめ、山本氏は、良くも悪くも振り切った経済政策を主張する。6年前なら失笑されただけだろうが、その後、米国でのサンダースやオカシオ・コルテス、英国のコービンなど、若い世代を魅了した反緊縮旋風が起きて事態は一変。日本には現職の野党議員でそのポジションを取っているのが誰もいない状況で、山本氏はここでトップランナーになる可能性が生じてしまった。
池田信夫も先日ツイートしているが、今後の若い世代の雇用悪化によっては山本氏が台頭する余地が大きくなりかねず、山本氏の支持層は、立憲や共産のそれよりも若いと見られるだけに不気味だ。
左派では異形の尊王派(?)
もう一つは、これは日本社会独特の事情だ。先日、宇佐美典也くんのツイートを見て、はたと気づくものがあった。
これは政治マーケティング的にも非常に重要な指摘だ。筆者は山本太郎を過去の選挙での諍いから憎悪しているので、彼の手紙事件のことを表層的に「炎上マーケ」にしか思ってこなかったが、視点を変えれば、天皇陛下の権威を認めているからこその行動とも言える。そもそも天皇制が好きでなければ新党名に元号を入れたりはしまい(笑)
そこが通常国会の開会式で70年近く陛下の出迎えをバックれた共産党や、菅直人政権時代に静養中の天皇陛下(当時)を閣僚認証式のために東京に呼び戻して物議をかもした旧民主系左派とは異なる。
天皇制が人によって程度の差はあれ、特別な存在として社会的に位置付けられており、なおかつ、国政選挙の得票率の半分近くが自民票であることからしても、山本氏が政界でそれなりの勢力を築くには、少なくとも日本の伝統的基盤の破壊者として位置付けられることなく、ライトな保守・中道層にも浸透する必要が出てくる。そして既存の左派はここは苦手な領域だ。一応、これもざっくりポジショニングしてみよう。
維新のお株を奪う首都圏の第3極に!?
東京選挙区の話に戻すと、そのことは、橋下時代の維新や旧みんなの党の支持層も含めて、山本陣営が刈り取りにいける余地があるとも言える。
実は、ある政党が数年前に行った非公開調査で、旧みんなの党の支持層が同党解党後の国政選で投票した先を調べると、維新や自民以外の一定割合がなんと共産党だった。もちろん彼らは共産主義者ではない。いわば安倍政権にも民主系にも不満なだけのライトな破壊願望層ともいえ、選挙によって、維新やみんな、共産と投票先を変えていることが考えられる(2005年の小泉郵政選挙、2009年の民主党政権誕生もこの層が加わったとみていい)。
そう考えると、維新公認の音喜多陣営が狙っている層は、山本氏が東京に出るか比例に出るかで影響は小さくないだろう。当然、共産・吉良陣営、立憲・塩村陣営も、若年層やリベラルな無党派層が山本氏にかき回されないか神経をとがらせているはずだ。
寄付額が3億集まったら、れいわ新選組は、参院選で選挙区と比例区で5人ずつ擁立するという。山本氏が比例に回って全国に党勢を拡大し、万々が一、得票率2%以上で政党要件を満たすような事態になれば左派から野党再編を仕掛ける第3極のキープレイヤーになったりはしないか……山本氏が東京で出れば、泣くのは音喜多君くらいだが、比例で躍進なら安倍首相も枝野氏も泣くに泣けない、げに恐ろしき真夏の悪夢到来だ。
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」