本日、ピエール瀧さんの判決があり、懲役1年6ヵ月執行猶予3年の判決が言い渡されました。
これは薬物の自己使用での判決はよほどのことがない限り、執行猶予が付きますからまず普通かなと思います。(動画はANNニュースチャンネル公式YouTubeより:編集部)
ただ今回の裁判官は、初公判でピエール瀧さんに、
「松本医師の治療を受けて自分の中で発見したことはなんですか?」とか、
「もし夜中に1人で孤独になったりストレスを解消したいといった同じトリガー(引き金・きっかけ)があった時はどうします?」
など、薬物乱用や依存症者が再発防止の際に行うプログラムに沿ったような、なかなか良い質問をされているんですね。
で、「おっ!この裁判官はもしかして良く分かってくれてる人なのかもしれない」と思い、これだけ注目されている裁判なので、この方の判決の際に言われる「説諭」に期待してたんですね。
薬物乱用や依存症問題の本質に迫る、浪花節ではない社会の良い啓発になるような言葉が頂けるのではないか?
そう思っておりました。
が、結果は相変わらずの浪花節で、期待値が大きかっただけに少々残念・・・がっくり来てしまうものでした。
親しい記者さんに速報的に内容を教えて頂いたのですが、説諭の時間はおよそ6分間。
その主な内容は、以下の通りです。
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3年間悪いことをしなければ1年6か月の懲役はいかない。何か犯罪をしたら次は実刑。(執行猶予の説明ですね)
真面目にいれば刑務所にはいかなくて良いということ。
温情をかけたとか書かれたりするが違う、刑務所に入ることはある。見合った刑を言い渡した。
芸能人だからと、殊更重くしたことはないし、手心も加えていない。
裁判官は事実を見極め、判決を言い渡すのが本分だが、今回に限らず立ち直るのに何が必要か検討した。
1点、 引っかかったことがある。写真見てもらいたい。左上に漢字2文字が見えますか?(どんな写真かはわかりません)
ピエール瀧さん:はい。
そこには「人生」という2文字が書かれている。何故貼っているのか気になった。
あなたのインディーズ時代からの活動に出てくる言葉だと分かった。
そこでこの「人生」と書いた人に対して、どんな話をするのか考えた。
ダークサイドな話ではなく、仲間音楽をやる楽しさを語ったのかなと思った。
貰ったあなたは嬉しい気持ちになってこれを貼ったのではないですか?
そのうえで言いたいことが3つある。
1つ目は人生をどうしたいか。
2つ目は人生が持つ意味は何か。
3つ目は「人生」と書いてくれた人の気持ちに応えられているかどうか。
あなたが復帰できるのが、何年先かはわからない。
いつか瀧さんは薬物がなくてもよいパフォーマンスができることを切に願っている。
この先カウンセリングに通うことがあると思う。その中で迷ったり孤独になることを心配している。
その時こそ「人生」の文字を書いてくれた人の気持ちに応えられているか胸に手を当てて考えてほしい。
それが自分を見失わないために大事なことではないかと思う。
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というものでした。
裁判官、私から是非お伝えしたい事があります。
まず「人生」という言葉ですが、私たち依存症者やその家族も人生を生き抜こうと必死に頑張って来ました。
その中で、一般の方々にはなかなか理解しがたいかもしれませんが、アルコール、薬物、ギャンブルなどに頼らなければ、人生を生き抜けない時期があったのです。
よりよく、そして周囲の人達を大事に思い、守ろうとした結果、それらのプレッシャーを受け止めきれず、ストレスになり不健康なものを使ってしまったのです。
私たちは決して、人生を捨てようとしたわけでも、台無しにしようとしたわけでも、大切な人を傷つけようとしたわけでもありません。
全く逆のことを考え、アルコール、薬物、ギャンブルに頼ってしまったのです。
そして、それらのものを使ったからと言って、その結果仕事で良いパフォーマンスを残せたことなどありません。
むしろ心の中は罪悪感でいっぱいになり、一瞬気持ちはあがってもその反動の方がずっとずっと大きかったのです。
ですから瀧さんのあの素晴らしい音楽や演技は薬物のお陰であったかのような、誤解を与えかねないお言葉は非常に残念です。
また瀧さんの社会復帰を阻むものは、薬物乱用や依存症者に対する誤解や偏見からくるものです。
なぜか芸能人の薬物事犯に関してだけは、容易に社会復帰をさせない雰囲気があります。
これは平成28年12月14日に公布,施行された「再犯の防止等の推進に関する法律」にも逆行するものであります。
ここにこの法律の概要がありますが、
一番大切なことは、基本理念のトップに掲げられた、
1)犯罪をした者等の多くが、定職・住居を確保できない等のため、社会復帰が困難なことを踏まえ、
犯罪をした者等が、社会において孤立することなく、国民の理解と協力を得て再び社会を構成する一員となることを支援する
というところにあると思います。
私も何度も情状証人で出廷させて頂きましたが、そのような裁判で「社会復帰がいつになるかわからない」などと、言われたことも、言ったことも一度もありません。
むしろ判決後どこに住み、どこで働くかが決まっているかが重要なポイントとされています。
ですから裁判官、ここは「1度失敗した者には懲らしめがあるよ」と言ったご発言ではなく、
「瀧さん、周囲の人の理解を取り付け、一日も早く社会復帰を果たし、今後は社会貢献して下さいね。」
とおっしゃるべきではなかったでしょうか。
また瀧さんの状況は決して孤独ではありません。
何よりも相方の石野卓球さんが変わらぬ愛と友情を表明されておられますし、白石和彌映画監督らも支援と友情を表明されておられます。
この勇気ある周囲の方々の行動は、これまでの芸能界の薬物事件ではなかった画期的なことです。
ですから裁判官に「あなたにはまだ大切な友人たちがいます。この人達に感謝し、支えて貰いながら、今度は健康的にやり直しましょう。」と、おっしゃって頂ければ、多くの薬物問題に苦しむ方々の救いとなったことでしょう。
そして最もお伝えしたい事は、私たちは周囲の期待に応えようとしすぎて、無理を続けたために、不健康なものに頼らざるを得なくなりました。
ですから裁判官、ここは
「人の気持ちや期待に過剰に応えようとせずに、これからは自分の気持ちや心の声を聞いていきましょう。
他人の期待に応えようとする人生は、まさに他人の人生を生きることです。
これからは自分を大切に、自分自身の人生を生きて下さい。」
とおっしゃって頂きたかったです。
法曹界は、どうか浪花節から脱却し、薬物乱用及び依存症問題で本当に必要なものは何か?それを伝えて頂きたいです。
そして国の方針でもある「再犯の防止等の推進に関する法律」にのっとって頂くことこそ、真の意味で芸能人の特別扱いを止めることではないでしょうか。
今後の法曹界の変化を期待し、一依存症者からの声が届くことを願っております。
田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト