習近平氏の北朝鮮訪問をどう見るか?

岡本 裕明

6月21日、22日に習近平国家主席が北朝鮮を訪問すると発表されました。個人的にはやや驚きですが、なぜそのような計画を盛り込んだのでしょうか?

2018年3月に金正恩氏が電撃訪中した際の両首脳(朝鮮中央通信より:編集部)

G20が28日、29日に開催されるわけで今回の訪朝で中国が北朝鮮をどういう立場で捉えているのか、その姿勢が明白になると思われます。この訪朝は金正恩氏の招きであることを受けて、とあります。

金正恩氏としては3度目の米朝首脳会談を通じて北朝鮮への制裁解除と外交的勝利を通じた金体制の安定的な確立を目指しているかと思います。この部分は比較的わかりやすいのですが、中国が北朝鮮をどう捉えているのか、本心が私には読みにくいのであります。

中国にとって北朝鮮の存在は微妙なバランスの上に成り立っているように見えます。歴史的つながりからすれば中国と北朝鮮は切っても切れません。しかし、今の北朝鮮の経済状況を考えると仮に崩壊などが起きた場合、2500万人の北朝鮮国民が大量に中国に流れ込む可能性はあります。その場合の中国側はただでさえ、中国経済の低迷とアメリカからの制裁で厳しい中、ダメージは計り知れないものになります。

では北朝鮮が外交カードになるのか、といえば私はならないとみています。今、米朝でもめているのは非核化をめぐるプロセスであります。アメリカは今すぐに完全撤廃を主張するのに対して中国とロシアは段階的撤廃を認めるという立場にあります。

しかし、北朝鮮が核を手放さない方針であることは各方面の調査機関から裏付けが取れており、段階的非核化というプロセスはないと言っているのも等しい状況であります。言い換えれば習近平氏が北朝鮮を擁護する姿勢は論理的説得力に欠け、むしろ、余計に習氏の立場を苦しくするように見えます。

とすれば、もう一つの可能性は中国とアメリカの様々な交渉材料の一つに利用するという考え方ができます。

習氏の頭の中はG20で直接対決した際にどのような切り口で展開するか、あらゆるシナリオ想定をしているはずです。その中でメンツを潰されず、トランプ大統領とうまく渡り合える材料の一つに失敗であった2度目の米朝首脳会談からどう立て直すか、その道筋を中国が提示するとすればトランプ大統領は乗ってくるでしょう。なぜなら議長国である日本にとっても極めて興味深い話であり、安倍首相も乗ってくるからであります。

ところでトランプ大統領の訪韓日程がまだ発表されませんが、多分、G20の終わった直後の29-30日になる公算が高そうだと見込まれています。これはとりもなおさず、G20で習氏との会談を通じて金正恩氏のメッセージを確認した上で韓国の文大統領と北朝鮮問題について会談に臨むという一連のストーリーは完成します。つまりトランプ大統領にとってもありがたい情報源になるでしょう。

習氏の今回の北朝鮮訪問は金正恩氏のメッセージをトランプ大統領に伝えながら「共通問題を共に解決していく」というポジショニングを見せるための外交的演出のように見えます。もちろん、トランプ大統領にしてもこれは歓迎するでしょう。ただ、だからと言って通商戦争に有利に働くかといえばトランプ大統領にはそんな甘っちょろい考えは微塵もないと断言します。

交渉の背景を考えると三文小説を読むよりはるかに面白いものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年6月18日の記事より転載させていただきました。