6月16日は行政事業レビュー公開プロセス・厚生労働省の後半戦。四つの事業について議論した。
国レベルで医療費請求書(レセプト)などの情報を蓄積したデータベースNDBがある。NDBをビッグデータ解析することで医療には地域による偏りがあることがわかったり、薬剤副作用の発症率などが把握できるようになったりする。厚生労働省は今後NDBに介護情報も連結する予定である。
NDBを公開し研究に供すれば、厚生労働省だけが直営で行うよりも、多様な視点で分析が実施されるようになる。それは医療や介護の高度化と医療費と介護費の適正化に役立ち、究極的には安定的・効率的な医療保険制度の構築につながる。しかし、厚生労働省はNDBの第三者提供に消極的である。
第三者提供は2018年度には61件に過ぎず、ほかに6件の申し込みが断られた。61件の内訳は、特別抽出33件、サンプリングデータセットの提供8件、集計表情報の提供20件。
特別抽出では、利用希望者の要望に応じて、全データの中から該当する個票の情報を抽出し提供する。個票はもちろん匿名化して提供される。しかし、他のデータも組み合わせると個人が特定される恐れがあるという理由で、利用希望者には強いセキュリティ管理が求められている。データ保管場所への入退室は管理され、インターネット接続も外部への持ち出しも禁止されている。
サンプリングデータセットの提供では、希少な情報(難病に関する情報)はあらかじめマスキング・削除され、安全性に十分配慮したうえで、無作為に抽出されたレセプト情報などが単月分提供される。特別抽出のように関連する個票のフルセットではないし、複数月にまたがるわけでもない。しかしインターネット接続は禁止されている。また、利用場所は限定され、空間および利用端末の施錠管理が行われ、利用端末のアクセスログ記録が残されている。
集計表情報の提供とはオープンデータとしての提供のことで、利用希望者からの声を参考にしてオープンデータの充実が図られるようになっている。
なぜ、第三者提供のセキュリティ条件がきついのだろうか。それは「医療情報は究極の個人情報だから、絶対安全に管理してもらわないと安心できない」という声に押されているからである。個人が特定される恐れが限りなく小さいサンプリングデータセットの提供が8件に止まっているのもこのせいだ。
『安全安心神話』が医療データの活用を阻んでいる。
質疑を重ねて、驚くべきことに、現在のセキュリティ条件の決定には情報セキュリティの専門家は参画していなかったことが明らかになった。それが過剰な条件をもたらしている。提供する情報の種類や量、匿名化の程度などに応じてセキュリティ水準を緩和するように専門家を交えて検討しなければならない。また、厚生労働省には安全安心神話の信者にNDB第三者提供の安全性を丁寧に説明するのがよい。
公開プロセスの結論は、この点も指摘して事業の一部見直しとなった。