被災想定地域の防災拠点でWi-Fi整備が遅れるのはなぜ

行政事業レビュー公開プロセスが進行中である。6月19日は総務省。三つの事業が議論された。

最初のテーマは「公衆無線LAN環境整備支援事業」。災害時に防災拠点に集まった市民が親族などに連絡しようとしても、携帯電話は混雑して利用できない場合がある。そんなときにも無線LAN(Wi-Fi)を使えるように環境を整備する事業である。電波利用料が財源になっている。

Wi-Fiが使える防災拠点は増えつつある。2017年度は20,980箇所、18年度は23,896箇所で、19年度には30,000箇所が目標になっている。17年度から18年度にかけて2,916拠点増えた。事業で補助した拠点数は17年度849箇所、18年度1,196箇所。18年度の場合には増加分のおよそ4割がこの事業で補助された計算になる。

どの防災拠点にWi-Fi環境の整備を希望するかは地方公共団体が判断する。リストされた総数のうちすでに整備された拠点の割合を整備率という。整備率の全国平均は73.3%で最大は徳島県の93.0%、次は東京91.1%である。ところが南海トラフ地震で大きな被害が想定される和歌山は69.0%、高知県は51.5%と低い。高知県は千葉県と並んで全国最低である。東海地震を警戒している静岡県が70.3%というのも違和感を禁じ得ない。

整備すべき防災拠点の選定から実施まで、すべてを地方公共団体の判断や意欲に任せきりにして問題ないのだろうか。どうして高知県では整備が遅れているか、総務省は問い合わせていないという。半額補助なので地方公共団体にも負担が発生するからなのか、他に優先するものがあるからか、近くまで光ファイバがないからか、事情が分からなければ対応しようもない。

東海地震や南海トラフ地震で大きな被害が出ることが想定される地域の中でも、特に整備率が低い地方公共団体に対しては、整備を進めるように総務省から十分に指導すべきである。

小中学校は防災拠点(避難所)として多用される。その小中学校には、教育の情報化の一環として文部科学省「教育ICT化に向けた環境整備5か年計画」が実施されている。これは、普通教室での無線LAN整備を含め、学校のICT環境整備に必要な経費について地方交付税交付金を与えるもの。避難所を置く体育館と普通教室は場所が異なるが、ルーター(伝送路設備)やPoE(電源供給設備)等は共通に使用できる。普通教室にしかWi-Fiがないとしても体育館から歩けば使える。文部科学省と総務省が縄張り争いをするのではなく、協力して学校でのWi-Fi整備を進めるほうが、教育にも防災にも役立つ。

このような議論の末、公開プロセスは事業の一部見直しという結論を出した。