Facebookは今月、ブロックチェーンを用いた独自の仮想通貨「Libra」を発行すると発表しました。これに対して、各国の金融当局から、懸念の声が次々に上がっています。例えば、6月20日に米下院 金融サービス委員会のウォーターズ委員長がCNBCのテレビ番組に出演し「私たちは消費者を守らなければならない。Libraがスイスに拠点を置いて米ドルと競合することは看過できない」とコメントしました。
論点は、米国ドルを始め既存通貨を凌駕しかねないことに対する畏怖、あるいはマネーロンダリングの温床となることの懸念、あるいは透明なガバナンスが守られなければ消費者に不利益を与えかねないことなどですが、より根源的な論点が出されていないようなので、私の考えを述べます。
結論としては、Libraはとても危険な「通貨」だということです。それはBitCoinなど、いわゆるブロックチェーンを用いた「仮想通貨」のリスクとは全く異なります。
BitCoinでは、新規コインを発行するには、Proof of Workという計算困難性があって「その追加的コストとベネフィットが一致する限界的現物通貨価格換算値でBitCoinの平均価値が決定される」という「物語」を参加者全員が共有するというのが価値の源泉です。
簡単に言えば「マイニングにかかった費用がビットコインの価値」だとみんなで合意することです。世界の皆が持つから、僕も持つということで信用が担保されています。ビットコインの本質は分散であって、通貨管理権は保有者全員にあって、民主主義のルール、多数決でその管理が極めて透明になされています。だから、世界中の人たちが取り付け騒ぎを起こす確率は相当程度に低いのです。
根本的には、 BitCoinは管理通貨制の下での(現在の)ドルや円となんら変わりはありません。米国政府や日本政府がデフォルト(国家破産)を起こさない、ハイパーインフレを起こさないという物語の共有「信用」が100ドル紙幣、1万円札に価値を宿らせるのです。BitCoinは全く同様の信用という概念の上に成り立っています。これを信用創造、シニョリッジと言います。
ところがLibraは、確かにブロックチェーンは使うのでしょうが、それはあくまでもFacebookの完全支配下にあるという点では、T-Pointや楽天ポイントと何ら変わるものではなく、楽天が倒産しない、Facebookが倒産しないという信用を前提とした「通貨」です。Facebookが倒産したらただの紙切れ、いや紙すら残りません。
そこでの信用はせいぜい一つの会社の財務状況に裏書きされるものに過ぎないのです。フェイスブックがどんなに巨大企業といっても、米国政府や日本政府の国家の信用、これをソブリンと言いますが上回ることは絶対にできません。
ところが、Libraが、ブロックチェーンという新奇性に訴求して、「BitCoin」と同じ性質を持つものと幻惑させ、あたかもドルや円を上回る信用に裏付けられた「安定的な」価値を担保しているという「物語」を流布しているので、各国金融当局が警戒をしているのです。
Libraがその安定性を保障することを唯一できるのは、Libra流通総額と同額のドルや円などのハードカレンシーの供託金を社外に積む場合です。そうすれば、もしフェイスブック社が破産しても、(かつて多くのIT企業が時代の趨勢に乗れず消えていったことを考えれば、決してありえない話ではありません。
マイスペースとの競争に打ち勝ったフェイスブックですが、mixiがそのFacebookやLINEに凌駕されたり、ヤフーオークションがメルカリに凌駕されたりなどという「下克上」が簡単に起きるのがITの世界です。
その意味で、Libraは金本位制下のドルや円、あるいは外貨準備高以上の価値を創出出来ない新興国通貨に類似していると言えるでしょう。
Facebookが倒産したら、あるいは自社の資産価値をLibra発行量が大幅に上回ったら(それは外部にはわからない)、あるいは、Libraの管理に不正や不祥事が発覚して突然信用価値が毀損されたら、などを考えるととても危険な通貨なのです。
今後第二第三のLibra が出て来ることが予想されます。それがリテラシーが必ずしも高くない人々の間に広く普及してしまう前に、全世界の叡智を集めてこの問題に対処する必要があるでしょう。
株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹
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