ラテンアメリカにおけるタバコ、アルコール飲料、繊維製品、医薬品などの密輸入販売の規模はラテンアメリカのGDPの2%、金額にしておよそ2100億ドル(23兆1000万円)相当だという。
Paraguay mantiene su récord como foco americano del contrabando de tabaco https://t.co/VHHa26NtjG
— ABC Internacional (@abc_mundo) 2017年7月24日
タバコだけに限定すると、国によって密輸入されたタバコが占める割合は次の通りである。パナマ70%、ブラジル54%、グアテマラ32%、エルサルバドル30%、ホンジュラス25%、チリ22%、コスタリカ18%、メキシコ16%、ベネズエラ15%、アルゼンチン14%、ペルー14%、コロンビア25%となっている。すなわち、パナマやブラジルでは市販されているタバコの半分以上が密輸入されたものであるということになる。
(参照:larepublica.pe:alnavio.com)
以上の列記した国以外にタバコの違法販売の“総元締め”的な存在の国がひとつある。パラグアイである。パラグアイから各国にタバコが密輸出されているのだ。勿論、上記に挙げたパーセンテージがすべてパラグアイから密輸入されたものだというのはない。しかし、そのパーセンテージの多くを占めているのは確かだ。
パラグアイが密輸を始めた動機となったのは1960年代にブリティシュ・アメリカン・タバコ(BAT)とフィリプモリス(PMI)がラテンアメリカへタバコを輸出するのにパラグアイまで正規のルートで輸出し、そこから密輸出が始まるのであった。それが盛んになったのは1980-1990年代で各国は高い輸入関税を避けるために密輸入を開始するのである。
例えば、コロンビアだと関税を払うと5198ペソ(172円)するものが密輸入されたタバコだと2740ペソ(90円)になるというのである。(参照:elcolombiano.com)
その密輸出の起点となったのがパラグアイで、パラグアイとブラジルとアルゼンチンの3つの国が国境を接する場所を利用してそこからBATとPMIの関連会社が密かにブラジルそしてアルゼンチンにタバコを密輸出し始めたのである。そこはスペイン語でトゥリプレ・フロンテラ(Triple Frontera)と呼ばれている地区で3か国の各代表都市が一緒になってタバコ以外にあらゆる商品の密貿易が盛んに実施されているのである。またそこはテロ組織ヒズボラの資金源ともされている。この3か国の中でもコントロールが一番緩やかなのがパラグアイである。
パラグアイという国は日本では馴染みの薄い国ではあるが、日本から南米に移住するのにブラジルでの受け入れが多くなって、その次に移住が勧められたのがパラグアイであった。人口僅か700万人に満たない国であるが、国土面積は日本よりも少し広く40.6万平方キロメートルもある。今も南米で唯一台湾と国交をもっている国でもある。
そのパラグアイに秒速579本を生産する能力を備えた大手タバコ製造業者タベサ(Tabesa:Tabacalera del Este, S.A.)があるのである。タベサは年間600億本のタバコを生産している。その生産量が驚くほど多量であるかを示すものとして仮にパラグアイ国内だけでこの生産量を年間で消費するとしたらパラグアイで赤ん坊を含め1日に24本を吸うことに相当する量になるというのである。それが不可能であるというのは明らかなこと。実はこの生産量の90%は密輸販売なのである。(参照:perfil.com:asfixiandoelcontrabando.info)
タベサの社員は例えばブルガリア、アンティーリャス諸島、オランダといった国々に輸出したと言っているが、2001年から2016年の間に国連商品貿易統計データベースからブルガリアに輸出された形跡はないということが明らかにされている。同様に同年間にキュラソー島、アンティーリャス諸島、オランダなど10か国に57億本を輸出したとタベサが発表しているが、同統計ではそれが記録されていないということになる。
(参照:asfixiandoelcontrabando.info)
同様に昨年、スペインに386,069,988本、403トン輸出したと発表されているが、スペイン側では126,320,356本、132トンがパラグアイからの輸入として統計されているだけだという。同様に、米国向けで15年間に2,278,224,181本輸出したと公表されているが、米国では2,140,187,926本が輸入されたということことで双方に数量の違いがある。(参照:rdn.com.py)
実はタベサを経営しているのはカルテス一家で、ホラシオ・カルテス前大統領はこのファミリーの一員である。彼は昨年イスラエルのエルサレムへの大使館の移転を決めた大統領でもある。彼が大統領だった時にタベサが密輸に関与しているという疑いに対し、「密輸は税関が関わっていること。我が家族はそのようなことはしていない。良心に恥じることはしていない」と答えたのであった。(参照:abc.es)
ラテンアメリカは汚職の盛んな地域である。カルテス前大統領の説明は説得力に欠けるもので、国際ジャーナリストの調査で国境地帯ではタベサのような企業は国境を跨いで双方の税関官僚にコミッションの支払い、輸送トラックの手配などを実行しているという。ブラジルとアルゼンチンに密輸出する場合は前述したトゥリプレ・フロンテラを利用して蜜輸送が行われている。
例えばBATのアルゼンチンにおける系列子会社ノブレサ・ピカルドによると、アルゼンチンに送るのにトゥリプレ・フロンテラを利用していることを明らかにしている。アルゼンチンではこの密輸入によってアルゼンチンの税関が逃している関税額は年間で6億ペソ(14億円)円)になるという。同様にブラジルの場合は昨年だと29億ドル(3190億円)が関税を支払うことなくブラジルに持ち込んだことになっている。
(参照:perfil.com:eldiario.es)
タバコの密輸はそれを輸入関税を支払うことなく販売されていることが違法なのだが、麻薬と違いタバコは合法化された商品であるが故に、汚職が蔓延るラテンアメリカではそれを取り締まるのは容易ではない。
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家