ビットコイン急上昇の理由は何か

有地 浩

ビットコインの価格が先週末節目の10000ドルを超え、その後も上昇している。今年3月頃は3000ドル~4000ドルあたりを上下して、仮想通貨懐疑派の人々からはビットコインは死を待つのみと言わんばかりのことが言われていた。

それが4月初めに突然息を吹き返して5000ドルを超え、5月には6000ドルから8000ドルあたりまで上昇した。そしてここに来ての10000ドル越えだ。日本円ベースでも1ビットコイン=百万円を超えた。もちろんビットコインが最高値を付けた2017年12月の2百万円超えには遠く及ばないが、短期間での驚異的ともいえる回復だ。

Zach Copley/flickr:編集部

この急上昇の背景については、4月2日の上昇の時点から現在に至るまで、様々な理由が多くの関係者の口から語られている。

その主なものだけでも、ロシアがアメリカからの経済制裁に対抗するために外貨準備の一部をビットコインにすることとして、少なくとも百億ドルは購入する可能性があるとか、インドではビットコインなどの仮想通貨の売買や発行を全面的に禁じるとの報道があり、それが却ってビットコインの買いを刺激したとか、Tetherというドルにリンクした仮想通貨でこれまで人気を博していたものが、裏付けとなるドルが流出していると指摘する訴訟が提起されたことを嫌気して、テザーからビットコインに資金が移動しているとか、である。

匿名性がウリの仮想通貨なので、これらの説の真偽は容易には確かめられない。

一方で、仮想通貨懐疑派の人達は、今回のビットコイン相場の上昇は仕手株と同じで、相場操縦をする者が値を釣り上げているだけなので、彼らが利益を手にして売り抜けたら元のレベルまで急落すると言っている。

確かに、仮想通貨の取引は市場規模が株や債券と比べると圧倒的に小さいので、相場操縦の可能性も完全には否定しきれないが、単なる推測ではなく実際に需給に影響を与えうると考えられる要因がいくつかある。

その一つは4年ごとに来るビットコインの採掘報酬の半減期だ。これが2020年5月に来るとされている。前回2016年に半減期が来た際はその直前にビットコインの価格が上昇した。なぜなら、マイナーと呼ばれるブロックチェーンのブロックを作る人達へ与えられる報酬(言い換えればビットコインの新規発行)が半分になるため、市場に新たに出回るビットコインの量が減少するからだ。

もう一つはアメリカの機関投資家を中心に仮想通貨への投資の関心が高まっていることだ。そうしたことを反映してアメリカ金融大手のフィデリティはすでに大手機関投資家向けにビットコインの保管サービスを始めていたが、さらに今年5月初めには数週間のうちにビットコインの取引サービスを開始することがメディアで報じられた。

そして、直接に需給に影響が及ぶわけではないが、心理的な支援要因としては、最近発表されたFacebookの仮想通貨Libraがある。IT世界の巨人の1人であるFacebookが仮想通貨を自ら手掛けるというニュースは、ビットコインのライバルが現れるというネガティブな受け止め方ではなく、むしろ仮想通貨が実体のない無価値のものだという仮想通貨懐疑論者の考えを否定し仮想通貨にお墨付きを与えるものとして受け止められている。

今後ビットコイン相場がどのような動きをするのか、仮想通貨市場は価格の変動が激しいため、確たることは言えないが、24日付けのアゴラで藤巻氏が「ビットコイン急上昇も、日本の売り手が減少すると思う理由」という記事で「もちろんアップ&ダウンはある。しかし売り手が減れば値段は上がる」と述べておられるのは、今後の行方を占う上で参考となるだろう。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト