行政事業レビューの効果はどこにあるのか

僕が担当した行政事業レビュー公開プロセスの状況は11本の記事で連載した。今年は「事業全体の抜本的見直し」という結論が多かったが、何が原因だったのだろう。

内閣官房「行政事業レビュー」

この数年「根拠に基づく政策形成(EBPM)」が行政事業レビューで強調されてきた。EBPMは多くの代替案の中から有効性と効率性が高い事業方法を選択する手法である。公開プロセスに臨む外部委員はEBPMの視点から各府省の事業を評価する傾向がある。各府省が掲げるアウトプット指標(短期的な効果)やアウトカム指標(経済社会に与える影響)は、有効性や効率性という観点で事業を評価するのに適切かを吟味する。そのうえで報告された結果をチェックする。

しかし、事業の多くはEBPMが注目を集める前に開始されているので、有効性や効率性を表現するように成果指標が選択されていなかったり、そもそも有効性や効率性が測定できなかったりしている。外部委員の間でのずれを生み、「事業全体の抜本的見直し」を結論する一因となった。

一例が厚生労働省の補助事業である。保育園での体調不良児の保育についても、受動喫煙防止についても、厚生労働省は何自治体が手を上げたかを成果指標とした。これに対して外部委員は、体調不良児保育はどの程度保護者の役に立ったか、受動喫煙対策を取った飲食店等がどの程度増えたかなどに関心があった。自治体が手を上げることと最終受益者にサービスが届くことは異なるので外部委員はこのように主張したが、厚生労働省にすれば、最終受益者視点での評価は自治体の仕事ということになる。

政府が執行できる予算は限られているから、それを最も有効活用するように事業を展開しなければならない。EBPMはこの考え方で導入され、新事業の立案時に考慮されるようになり始めた。年が進むにつれて各府省と外部委員のずれが解決していくように期待する。

もう一つ引っ掛かったのは「デマケ」。外部委員の多くは行政事業レビューに数年以上関わっている。その経験があるので他省に類似の事業があることなど容易に気づく。一方、担当課も他省に類似の事業があることは知っている。彼らは他省と調整したうえで事業間に境界線を設けるのが常である。官僚言葉で「デマケ」。英語ではDemarcation、「境界線」という意味である。

国民の目線では「デマケ」が理解できないことがある。学校の普通教室にWi-Fiを整備するのが文部科学省の事業で、学校の体育館が避難所になったとき用にWi-Fiを整備するのが総務省の事業である。二つの事業は、学校まで光ファイバを引き込み、そこから校内に分岐を作っていくところまで設備が重複する。体育館に設備がなければ避難した人は普通教室で利用すればよいという利用形態でも、国民目線では「デマケ」は成立していない。

このような事情で外部委員は厳しい評価を下した。しかし、それによって、政府の事業はより有効なものになり、予算はもっと効率的に配分されるようになる。これが行政事業レビューの効果である。