日刊工業新聞に防衛産業の記事を書く能力はない

日刊工業新聞には防衛産業について記事を書くための基礎的な能力が記者にも、記事を精査するデスクにもないようです。「工業」の専門紙ですから、これを信用する読者も少なからずいることでしょう。罪作りな話です。

宙に浮く「F2」後継機゛…開発経費計上は見送りの公算(ニュースイッチ)

装備品の“頂点”とも言える戦闘機は関連企業は1000社近いと指摘される。現在の航空自衛隊戦闘機はほとんどが米国製。「F4」と「F15」は三菱重工が国内で部品を組み立てるノックダウン(KD)生産だったが、最新ステルス戦闘機「F35」はコスト削減を理由に、19年度調達から米国完成機輸入に変更。日本企業が技術を習得できる機会は著しく狭められた。

F35A(空自サイトより:編集部)

ノックダウン(組み立て)生産と、コンポーネントの内製化も含めたライセンス生産の区別がつかないのは防衛産業のみならず、工業専門紙としては落第でしょう。仮に記者がそういう記事を書いても、デスクがそれをそのまま載せてしまうというのは会社として工業の知識がお粗末ということです。

今更言うまでもありませんが、コンポーネントを生産するライセンス生産と、単なるアッセンブリーに過ぎないノックダウンでは、技術移転の度合いがまったくことなります。

日刊工業新聞はかなりパーセンテージのコンポーネントが国産化されているF-15Jと、ノックダウンのF-35やMCH101あたりの生産の技術移転のメリットが同程度だと思っているのでしょう。

FACOにしても基本はほぼノックダウンで、技術移転の妙味はありません。単にコストが高くなるだけです。
ですから輸入に切り替えただけです。余分な税金を国内企業にばらまくだけで、利益はありません。

近年ノックダウン生産が増えたのは、調達機数が減って、コンポーネントを内製化するとコストが極めて高くつくからです。かつてのF-15Jあたりでも米国製の3倍はしましたが、調達数が数分の一であれば、1機数百億円にはなったでしょう。そんな金は出せないということです。

日刊工業新聞の記者たちはこの程度のことも理解できていないと言わざるをえない。であれば同紙の記事のクオリティは全般的に疑う必要があるということです。

潜水艦は失注、「P1」「C2」は防衛品輸出の切り札になるか(ニュースイッチ)

P1、C2とも川崎重工業が製造を担当。本年度からの新たな中期防衛力整備計画(中期防)では、5年間でP1を12機、C2を5機導入する計画だ。これに加えて輸出に結びつけられれば、製造会社やサプライヤーの恩恵は大きい。日本の防衛産業を維持・拡大するためにも、輸出による生産規模の積み増しに期待がかかる。
(パリ=長塚崇寛)

これまた基礎知識がない記者が、装備庁の「偉い人」のコメントそのまま受け売りで書いたのでしょう。

しかもテクノナショナリズム的な願望丸出しの見出し。

他国の同クラスの3倍以上値段が航空機が売れるかどうか素人でも分かる話です。

加えて申せばアフターセールス網もない、P-1なんぞは信頼性も怪しい、コストの高い国産専用エンジンです。
自衛隊以外のユーザーもいない。C-2は不整地運用ができないという軍用輸送機としては致命的な弱点があります。また民間転用も無理です。これから耐空、型式証明とるなら数百億円はかかるでしょう。それを回収できるわけがない。

更に申せば、こういう高額案件は外交、政治的な売り込みのノウハウが必要ですが、それが全く我が国はない。釣をやったことがない人間がいきなりインド洋でカジキマグロを釣り上げよう、みたいな話です。

こういうことすらわかっていないから、輸出に過度な期待が持てるかのような記事を掲載する。

武器輸出ならばむしろ軍用トラックとか、中間財、素材です。
16式機動戦闘車の空冷システムには某社が開発した断熱材が使われるようですが、こういう部材が本当に高性能であれば輸出が可能でしょう。

これらの記事は、海外の軍事産業の取材もせずに、国内の奇異な当局とメーカーの話を鵜呑みにして記事を書くとこうなるという見本みたいなものです。

ろくに防衛産業の取材もしていないで、当局の主張を鵜呑みで大本営発表的な記事を書くなら、書かないほうが余程ましです。

分からないことは書かない、というのもジャーナリズムの見識です。

■市ヶ谷の噂■
陸自の75式ドーザーの後継で本年度参考品調達で7億円を計上。最有力候補はBAEシステムズ傘下のトルコ、FNSS社のAACE (Armored Amphibious Combat Earthmover)という噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。