「連携」はタダのキーワードではない!

ここのところ「国際行動嗜癖学会」と「日本精神神経科診療所学会」という二つの学会で、シンポジストとして発表させて頂く機会があったのですが、どちらの学会でも「連携」という言葉が叫ばれていたんですね。

もちろんこれ非常に重要なことで、特に依存症のような「否認」が強く、しかも「医療モデル」ではなく「社会モデル」で回復するような病気は、関係各所との連携が欠かせない訳です。

そして一番重要なのは、依存症の当事者そして家族の役に立つ連携、救われるものでなくてはならないはずなのです。

FineGraphics/写真AC(編集部)

ところが現状、依存症対策というのは「拠点病院事業」という医療中心に考えられているためか、往々にして、当事者と家族が置き去りのまま、基本計画が推進されているんですよね。

何年も何年も家族で抱え込み、事態が変わらないまま、お金をふんだくられ、時に暴力におびえているような家族は置き去りにされたままで、行政も医療も「本人を連れてこい!」の1点張りですし、当事者、家族支援で行われていることは、殆ど数回の認知行動療法です。

学会でも同じようなテキストが名前を変えて登場し、その効果測定(しかも短期的な!)が発表される・・・ギャンブルの場合それ以外の発表を見たことない位です。
そして自助グループとの連携がないんですよね。

テキストにちょろっと自助グループのことが書かれている位で、医療や病院で行われるプログラムに自助グループからメッセージを運んだりということが、殆ど行われていないんです。
地域の自助グループを育てよう!という意識が全くないし、あったとしても何をやったらいいのかわかりませ~ん!みたいな感じなんですね。

よくお医者様が「ギャンブルは自助グループに丸投げだった」と言われますけど、いやギャンブルなんか殆ど投げて貰ってもいないですよね。
大体、「自助グループに行きなさいと言ってるけど、なかなか行かないよね~。」
みたいにおっしゃられて終わり。

繋ぎ方の検討や試行錯誤なんか全く行われてこなかったです。
最近はアルコールで三重の猪野先生が推奨されているSBIRTSが効果をあげているようですが、ああいったものがギャンブルでもできて欲しいです。

だって当事者・家族の自助グループが県内1カ所もない・・・なんていう県がまだまだあるんですよ!
最近は「ネット上では会場があることになっていても、実際にはやっていないようだ・・・」
なんていう県もいくつかあって、県の行政担当者が自助グループの実態を把握すらしていないんです(涙)。

一番の問題は、医療者・支援者向けの研修会があるんですけど、この研修を行うのが、医療者と行政と弁護士、司法書士といった「資格者」だけで行われていること。

なんで一番重症な、医療や行政から見捨てられた人達の支援をしている民間団体の話を、聞いて貰える研修がないのでしょうか?
どうして当事者、家族が「どんな支援を求めているか?」発表させて貰える場がないのでしょうか?
何故「医療や行政はこんな風に対応して欲しい。」と意見を言える場がないのでしょうか?
ギャンブル依存の医療者支援者研修であるのはせいぜい「体験談」のみ。

自助グループの体験談は、もちろん必要ですが、それだけでは現場で起きていることなどわかりません。
全国の当事者・家族の意見を集約している我々民間団体に現状や課題を発表させて欲しいです。

それから研修に出て欲しい医療やその他の資格者を、当事者・家族からの推薦で選ばせて欲しいんですよね。
我々が信頼する人、我々と連携を作ってきた先生、我々をないがしろにしない医師、利益相反問題がなく、業界におもねった発信や啓発をしない先生、そういう先生方が登壇すべきだと思うんです。

時々とんでもなく独特な意見を言う人が登壇していて、仲間たちと「ぎゃ~!止めてくれ~!」と頭を抱えています。

依存症対策で活躍し、輝くのがなんでお医者様だけなの?って思うんですよね。
当事者・家族が回復して輝くべきじゃないでしょうか?
そういう姿、ロールモデルが社会のあちこちで見られるようになることこそ、真の依存症対策じゃないでしょうか?

「連携が大事」と言いながら、いつも全てお上が決めてしまい、意見すら差し挟めない、ただのお仕着せ、押し付けしかない現状。
どんな支援者研修が行われているのかすらわからない現実。
それでいて我々には大変な案件ばかりがまわされてきます。

特にギャンブルはアルコールの関係者会議に、市民団体の代表としてアスクさんが入り、会議も2年にわたって開催され、意見を言える場があったのに比べ、本当になにもないですからね。

「連携」って、学会等の様々な発表のキラーフレーズになっていますけど、実際には、当事者・家族は完全に置き去りで、全然お声すらかけてもらえない・・・そんなことばっかりです。
連携って企画書ではできないし、言ってるだけじゃ産まれないんですよね。
ちゃんと医療者、支援者、行政、当事者、家族が意見を言ったり、聞けたりする場が欲しいです。

やりやすいことばかりを広めるのではなく、依存症から回復した当事者・家族が活躍できて輝ける連携、そして今困っている当事者・家族が助かる連携を是非ともお願いしたいんです。

我々は情熱と経験の宝庫です。
どうか上からではない、横並びの連携を実現して下さい。
宜しくお願い致します。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト