提言全文:大規模災害からのより迅速・円滑な応急・復旧対策に関する提言

一昨年から昨年にかけて務めた総務大臣政務官として非常災害対策に深く関わったこと、また、平成30年7月豪雨で地元・福山を含む西日本全体に甚大な被害があったこと、そしてそれらの被災地が未だ完全復旧・復興しきれないことで、この国の防災対策を一気にアップデートしたい思いが募っています。 自民党災害対策特別委員会の中に、今年に入って諸課題対応に関する小委員会を立ち上げ、過去の災害から学び、被災地の運営やボランティアなど、ソフト面での改善策を中心に提言書をまとめました。引き続き必要な改善を行なっていきます。


以下に提言の全文を掲載します。

尚、この提言書のとりまとめにあたり、内閣府を始めとする関連省庁の職員の皆さんには情報収集と整理にご協力いただきました。ありがとうございました。

「大規模災害からのより迅速・円滑な応急・復旧対策に関する提言」
(第一次報告)
~令和時代の防災減災強化策~

令和元年5月28日
自由民主党 災害対策特別委員会
諸課題対応に関する小委員会

はじめに

平成最後の年となった昨年は、大阪府北部地震、平成30年7月豪雨や相次ぐ台風、北海道胆振東部地震など、大規模災害が相次いだ年であった。平成の時代を通じて、我が国の災害対応レベルは極めて向上したが、未だに多くの人命が失われていること、また復旧・復興までの道のりが、依然決して 短くはないことは重く受け止めなければならない。

一連の大規模災害の経験を踏まえ、政府は、昨年、総額7兆円の「防災・ 減災、国土強靭化のための三カ年緊急対策」を取りまとめ、ハードからソフ トまであらゆる手を尽くして対策を講じることとしている。加えて、最近の 災害では、被災者の避難生活や心のケア、物資支援における ICT の活用、ボ ランティアによる「共助」の促進などへの取組みが大きな課題となっており、 政府のみならず、被災自治体や病院・福祉団体、民間企業、NPO などの官民が 一体となった取組みが不可欠である。

このため、災害を通じて得た教訓を今一度整理し、我が国の災害対応がよ り効果的なものとなるよう、わが党では、災害対策特別委員会の下に「諸課 題対応に関する小委員会」を立ち上げ、政府や被災自治体に加えて、有識者 や災害現場で活動されている団体を招き、今般、以下の提言を取りまとめた。

令和新時代において、我が国のレジリエンスをより強化し、災害からの回復力を向上するため、政府に対し、官民連携のもとで、下記の事項を踏まえ た防災減災対策を速やかに講じるよう強く要望する。

1. 避難所の生活環境の改善

災害が激甚化する中で、被災者の避難生活は長期化する傾向にあり、健康被害や災害関連死が大きな課題となっている。また、災害経験のない自治体にとって、避難所の生活環境についての知見がなく、災害救助法の運用も定型的になりがちである。避難所の生活環境を改善するため、政府は被災者の立場に立ち、地方自治体と連携して、以下の取組みを進める必要がある。

  • 「避難所運営ガイドライン」において、避難所は「あくまでも災害で 住む家を失った被災者等が一時的に生活を送る場所」であり、「質の向 上」という言葉が「贅沢」という批判には当たらない旨の記載は既に あるところ、この趣旨のさらなる徹底を図ること。さらに、災害によ り家や家族、大事なものを喪い心身ともに傷ついた被災者を受け止め、 早期の復旧・復興につなげるための場であることを明らかにすること。
  • 避難生活の長期化が想定される場合に、避難所において、快適で十分 な数のトイレや温かい食事、それに段ボールベッドなどの簡易ベッド を提供することが標準的な避難生活であるというイメージを誰もが共 有できるよう、優良事例を紹介する広報資料を作成し、認識の醸成を 図ること。また、防災訓練の機会等を通じ、住民に対しても日常的に そうした避難所環境について周知を図ることや、設置に関する手順の 確認や知識・ノウハウの普及啓発等に努めること。自治体が上記のよ うな取組を進めるにあたり、具体的にどのような実現手段や連携先が あるのか等、参考になる情報を政府においてとりまとめ、自治体に周 知を図り、整備を積極的に勧奨すること。災害救助法においては、救 助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の一般的な基準が定められて いるが、災害の程度によってその基準では救助の適切な実施が困難で ある場合には、内閣府に協議の上その基準に上乗せを行うことが認め られている。このため、災害救助法が適用された場合に特別基準が活 用できることをあらためて地方自治体に周知すること。また災害の実 例を踏まえつつ、必要に応じて災害救助法における基準の見直しに関 する検討を行うこと。
  • 指定避難所について、人口動態、交流人口の動向を踏まえ、地方自治 体にその立地場所の適切な見直しを促進すること。また、公共施設だ けを指定避難所にするのでは数に限りがあるため、旅館などの民間施 設についても積極的に活用するよう促すこと。大規模災害において、 自宅のある地域の避難所で避難者を収容しきれない場合もあることか ら、都道府県等広域行政での取り組みも視野に入れて検討すること。
  • こうした取組みを、日常的に各自治体との連携を図りつつ強力に推進 するため、内閣府防災の災害救助体制を抜本的に強化すること。
  • 指定避難所となっている学校施設については、平時から空調設備やト イレ改修、給食施設の整備、自家発電設備の整備、体育館の多層化等 の防災機能の強化が必要であるため、積極的に財政措置も含め支援す ること。その際、駐車場等にもなるグラウンドは、学校施設と共に使 用されることから、整備の一体化を図ること。また、全ての指定避難 所の防災機能の整備状況について、定期的に調査を行い、現状を把握 すること。
  • 避難所の開設・運営において、対口支援方式による支援が有効であっ た例が報告された。一方、受援側での認知度不足や体制の整備等の課 題も見られた。GADM(災害マネジメント総括支援員)派遣による支援 も含め、自治体における災害時の受援体制整備について、政府が促し、 必要な協力を行うこと。
  • 避難所における防犯対策については、警察との連携の下、巡回や被害 者への相談窓口情報の提供を行うとともに、被害者・支援者全体に対 して、いかなる犯罪・暴力も見逃さない旨を周知すること。
  • 本委員会で紹介されたイタリアの例をはじめ、海外における災害避難 所への備えや実態等について、政府において十分な調査を行い、我が 国の防災政策に反映するよう努めること。
  • 政府において、避難所の生活環境改善の観点からも、管理栄養士の活 用事例やキッチンカー、コンテナトイレ等の導入事例の紹介を行うこ と。
  • 政府は、調理師などプロによる災害ボランティア活動の事例を紹介し、 市町村におけるこれら専門家団体との災害時の連携強化に努めること。

2. 物資支援や生活情報の提供における ICT の活用を含めた情報連携・情報発信

昨年の災害では、プッシュ型物資支援を実施するほか、避難所情報、 物資ニーズ、物資支援状況等について迅速な対応を行ったが、さらに改善を加えるとともに、情報を一元的に把握するための機能強化が必要である。また、被災者に必要とされる道路交通情報や生活関連情報が被災 者に十分届いていないだけでなく、様々な応急復旧活動に従事している民間事業者に共有されていない。またそもそも被災自治体自体が混乱し、 情報発信に苦慮する例も見られた。加えて、障碍者やインバウンドをは じめとする外国人の方々への配慮も必要である。これらの課題に対して、 政府は ICTを活用することも含め、以下の取組みを進める必要がある。

  • 避難所情報、物資ニーズ、物資支援状況等の迅速かつ一元的な把握の ため、現行の物資調達・輸送調整等支援システムを機能強化し、早期 の本格運用を目指すこと。
  • 災害対応に資する情報の関係機関への提供を進めるため、大規模災害 時に災害情報を集約・地図化、提供し、自治体等の災害対応を支援す る現地派遣チーム(ISUT:アイサット、Information Support Team) について、実際の災害対応や訓練における検証、関係機関との連携強化等を通じて、その機能強化を図ること。
  • 被災者支援等に関する生活関連情報については、現在、Lアラートを 通じて、地域住民等に発信する仕組みはあるものの、わかりやすい情 報発信や被災市町村、事業者等による情報入力が十分行われていない。 このため、民間の情報伝達事業者を活用した情報発信の促進や被災市 町村・事業者等による入力促進により、L アラートを通じた情報発信 の強化を図ること。
  • 自治体において、災害時の情報発信・広報およびそのための情報集約 の重要性の認識をより高める必要がある。自治体職員向けの応援受援 活動の研修で、報道機関やインターネットへの対応を含め、広報業務 支援を扱うこと。
  • 被災地での各種支援活動を実施する者に対し、災害時の市町村道に関 する通行止め情報が十分に提供されていないことから、幹線道路から避難所等までの間に市町村道が含まれている場合、当該道路に関する 通行止め・通行止め解除等の情報を把握することを政府として支援す ること。また、把握した通行止め等の情報が適切に公表されるよう、 現在災害時に運用している災害 Web や通れるマップの充実を図るとともに、当該道路について VICS リンクを設定するなどの環境整備を行うこと。

3. 迅速・円滑な救命救助・医療・福祉活動の充実

災害応急対策の第一の目標は人命救助である。とりわけ、大規模災害時には、発災後直ちに関係省庁と被災自治体が連携して、救命救助、行方不明者の捜索活動を行うとともに、災害派遣医療チーム(DMAT)などによる 医療活動によって、被災者の生命・身体を最優先にした支援を行うべきである。人命救助のための災害応急対策は時間との競争であり、被災した自 治体の機能低下も想定されるため、災害発生時に各主体が迅速かつ効果的 に対応できるよう、政府は地方自治体と連携して以下の取組みを進める必要がある。また、高齢社会を迎え被災者も高齢化が進んでいることを考慮し、在宅被災者も含め福祉的な支援の充実を図り、早期にもとの生活を取り戻すための継続的な支援も求められている。

  • 警察、消防、自衛隊、国交省の TEC-FORCE 等の現地派遣部隊や DMAT に ついて、関係機関相互の合同訓練や研修等を通じた人材育成や、小規模な自治体への支援、地域の自主防災組織との連携など、迅速・円滑な災害応急体制の整備に向けた取組みを引き続き推進するとともに、各地方自治体における職員の防災能力の向上に資する施策を推進すること。
  • 被災地での迅速な福祉的支援を可能とするため、災害派遣福祉チーム (DWAT)、福祉施設支援者、生活福祉資金貸付担当職員等の連携による 平時からの体制づくりが必要である。そのため、各都道府県において、 被災地でお迅速な福祉的支援を可能とするための体制整備(福祉版 DMAT の創設)を一層推進すること。
  • 消防防災ヘリコプターについては、地域状況に応じてブロックごとの 整備・運用体制の構築を図り、夜間飛行対応等の体制及び性能強化や 空中消火、救急搬送、高地における山岳救助活動など多様な用途に対 応できる機材を配置することとし、併せて機種の同一化を推進する。 パイロット等の人材についても、広域的対応能力の充実を図り、自衛 隊等との協働も合わせた即応体制を充実強化すること。
  • 海上からの救難復旧体制の充実を図っていくこと。
  • 自治体と医療機関は連携し、広域的空き病床等の情報を提供するとともに、速やかな被災者の搬送可能体制を整備すること。

4. ライフライン等の被害からの早期回復

昨年の一連の災害では、大規模な停電、生活に必要な情報通信機能の停止、水道管の破損などにより、国民生活や経済活動に大きな影響を及ぼした。国民生活に欠かせないエネルギー供給や水道を始めとするライフライン、交通インフラ、情報インフラが、災害時に機能維持できるよう、平時から万全の備えを行うことが重要であり、政府は関係事業者と連携して、 下記の取組みを進める必要がある。

  • 平成 30 年7月豪雨の際には、環境省と国交省が連携し、市町村が一括してがれき・土砂の処理を行い、その費用について事後的に請求でき るスキームを構築した。このように、災害時には省庁間の連携を密に し、被害からの早期回復のため、柔軟な制度運用に努めること。
  • 北海道胆振東部地震に際しては、想定を超える広域・長期間の停電により、大規模な通信障害が発生し、応急復旧に課題が認められた。大規模災害時の主要基地局の機能停止に備え、車載型基地局の増設等、 通信サービスの迅速な応急復旧のための体制整備に努めること。
  • 災害時の水道復旧について、復旧に要する時間の短縮に関する好事例の横展開や ICT 技術の活用など、時間短縮へ引き続き取り組むこと。 また、現在普及率が基幹管路でも4割に満たない耐震管について、十 分な予算確保を行い、導入率の向上を図ること。下水道においても災害時のトイレ機能の確保のため、下水道管路の耐震化やネットワーク化、マンホールトイレの整備を急ぐこと。
  • 鉄道の計画運休や長時間踏切が閉鎖するような場合の取組等について、 昨年発生した一連の災害への対応を踏まえ、必要な見直しを図ること。 また「重要インフラの緊急点検」を受けた「3か年緊急対策」等に基 づき、鉄道の防災・減災対策を着実に進めること。
  • 電柱の倒壊によって電力の供給が断たれ復旧活動等に支障となること を防ぐため、市街地や緊急輸送道路における無電柱化を推進すること。

5. 「共助」をより促進するための取組

昨年の豪雨災害は、行政主導の避難対策だけでなく、国民一人ひとりが 「自らの命は自らが守る」意識を持ち行動しなければ、命を守ることは難しいことをあらためて認識することになった。政府・地方自治体は、引き続き「公助」の取組みを進める必要があるが、国民一人一人が主体的に防災対策に取り組む環境を整備することが必要である。加えて、地域、企業、 学校、ボランティアなど「共助」の主体が連携して災害対応ができるよう、 政府及び関係団体は、以下の取組みを進めることが重要となる。

  • ボランティア受付やボランティア保険加入に時間がかかるなど、災害 ボランティアセンター(社会福祉協議会)の非効率な運営や立地が不便な場所にある事例が散見される。このため、ICT の活用による運営効率化やボランティア希望者への情報提供データベースの構築、適切な立地条件を事前に検討するなど災害ボランティアセンターの効率的な運営を実現するための施策を実施すること。
  • 行政・災害ボランティアセンター・NPO とその活動支援や調整を行う全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)等の中間支援組織を含めた三者連携の強化、ボランティア支援と受援の全体をコーディネートできる人材育成について、政府として防災基本計画に記載するなどその位置づけを明確にし、また国民への広報活動を行うこと。
  • 災害ボランティアは自己負担・自己責任が原則ではあるが、移動や機 材等に関し一定の支援を行うことで参加のハードルを下げることは、 より多くの方が災害ボランティアに参加し、また災害復旧を早めるた めに有効である。一方で現時点では被災自治体の負担により実施されている面もあり、対応にばらつきもみられる。こうした観点に立ち、 政府、自治体や関係団体としてどのような改善の取り組みが可能であ るか検討を行うこと。

6. 生活・生業再建支援の充実

被災された方々が安心して暮らせる生活や、被災した地域の賑わいを一 日も早く取り戻すことができるよう、被災者の生活再建を支援するととも に、農林水産業・観光産業などの復旧・復興等に迅速に取り組む必要があ る。被災者の生活・生業再建支援の一層の充実を図るため、政府は以下の 取組みを進める必要がある。

  • グループ補助金、小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金につ いて、運用面で災害ごとに柔軟な措置が取られてきている。一方、特 にグループ補助金については、認定後の各企業の申請時に膨大な資料 作成が必要であり、企業の負担軽減のため、申請企業へのフォローの 充実・手続きの簡素化等を図ること。
  • 中小企業や農業従事者は、事業が復旧しても、被災前の販路を一度失 ってしまうと、その回復や新たな販路開拓が難しいという現実がある。 そのため、被災事業者に代わって課題の整理を行い、長期的な視点に 立ってアドバイスを行う事業再建のコーディネーターを設置するなど、 被災事業者への支援を充実すること。
  • 全国知事会の提言を踏まえ、被災者生活再建支援制度の半壊世帯への 対象拡大等について検討するため、全国知事会とも協力して、早急に 被災者の実態把握等を行うこと。

7. コミュニティの維持を前提とした事前復興計画の策定・被災者の心の ケア

迅速でより良い復興を実現するため、被災後に進める復興対策の手順や 進め方を事前に講じるとともに、復興における将来目標像を事前に検討し、共有することが重要である。とりわけ、コミュニティや旧縁型地縁組織に 加えて、企業や様々な専門家の参画による事前復興計画の策定を、それぞ れの自治体においてより一層促進するため、政府は以下の取組みを進める ことが重要である。

  • 被災後もコミュニティが維持されるようなまちづくりを念頭に置いて、 都道府県や市町村の行政が主導して、住民やコミュニティ、関係団体 などを巻き込んで事前復興計画を策定するよう、市町村に向けたガイ ドラインをより一層拡充すること。
  • 幅広い地区住民や企業、保健師等の専門職の方による地区防災計画の 作成への参画をより一層促すこと。
  • 被災者、特に要配慮者を含む仮設住宅入居者は、被災前と大きく異な った環境に置かれることから、見守り・相談支援や、必要に応じて精 神科診療を含む個別診療などの医療・保健・福祉と連携しながら、こ ころのケア・健康管理を行うこと。

以上

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小林 史明  衆議院議員(広島7区、自民党)

自民党青年局長代理、行政改革推進本部事務局長。 電波、通信、放送政策、海洋水産政策、社会システムのデータ、標準化に取り組んでいる。2007年上智大学理工学部卒業後、NTTドコモに入社。2012年の衆院選で自民党から立候補し、初当選。第3次、4次安倍改造内閣にて総務大臣政務官(情報通信、放送行政、郵政行政、マイナンバー制度担当)。公式サイト。LINE@では、イベントのおしらせや政策ニュースをお届けしています。登録はこちら


編集部より:この記事は、衆議院議員、小林史明氏(自由民主党、広島7区)のオフィシャルブログ 2019年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林史明オフィシャルブログをご覧ください。