大阪G20が成功裏に終わった。いろいろなドラマがあったようだが、実はG20期間中に、日本国内でひそかに話題になっていたのは、トランプ大統領の日米同盟の片務性を指摘する発言だったようだ。
正直、トランプ大統領の発言は、大統領選挙中から繰り返し述べられていてことである。国際ニュースをきちんと見てきた人であれば、特段驚くほどのニュースではない。むしろ多くの識者が現在の日米同盟の安定感を評価するのは、トランプ大統領の心の中の不満を知っていればこそである。
それにしても安倍政権の外交政策面での安定感を支えているのが、政権発足後すぐに達成した2015年の安保法制であることを、あらためて感じる。あのときに限定的であれ、集団的自衛権を解禁する法制度を達成していたからこそ、今、冷静にトランプ大統領の発言を聞いておくことができる。
当時、国会の周りをデモ隊が囲むとか、内閣支持率が激減するなどの影響があった。憲法学者の方々は、首相によるクーデターだ、などと連日にわたって声高に叫び続けていた。
その一方、私の知り合いでもある国際政治学者の方々は、「安保法制懇」で安全保障の法的基盤を整備する必要性を指摘していた。安保法制懇で頑張られた方々は、そもそも集団的自衛権は違憲ではない、という論陣を張った。
あの時に集団的自衛権は違憲ではないという論陣を張られた先生方のおかげでもあり、安倍首相は平和安保法制を成立させた。このことが、日米同盟は片務的だと唱えるトランプ政権の時代になって、どれほど大きな意味を持つようになったか。
当時は、「国際政治学者たちは、違憲であることを知りながら、安保法制の必要性を唱えている」などとも語られていた。
全く違う。
憲法学者たちこそが、実は集団的自衛権は違憲だという議論に法的根拠がないことを知りながら、イデオロギー的な感情のおもむくままに、「首相による憲法学者に対するクーデター」の糾弾を行い続けていたのだ。
喧噪が終わって数年がたった今、多くの人々に、もう一度冷静によく考え直してみてほしいと思う。
集団的自衛権違憲論に法的根拠はなかった。
イデオロギー的感情にかられて行動していたのは、国際政治学者のほうではなく、憲法学者のほうであった。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、