7月4日に公示予定の参議院選挙。立憲民主党が公認を決めた元「モーニング娘。」市井紗耶香氏の出馬是非をめぐり、デイリー新潮の記事が話題となっています。
奇しくも同記事では尾崎財団の森山真弓・前理事長を比較対象として引用していることもあり注目しました。
尾崎財団のフェイスブックでも取り上げたところ、思いのほか盛り上がりを見せました。
果たしてタレント候補の擁立は是か、それとも非か。思うところを整理しておきます。
政党を問わず、タレント擁立は世の趨勢
今回のデイリー新潮では市井氏出馬の背景を、これまでの学歴や職歴といった素養の面から一蹴している感が否めません。
比較対象として挙げている森山元官房長官の経歴は、たしかに申し分ないと身内ながら思います。
その一方で、そもそも今回のデイリー新潮は記事を起こす前の比較選定が浅すぎます。
今井議員や蓮舫議員、三原じゅん子議員に限らずとも、ふるくは各党こぞってタレントを起用し集票を狙った事実があります。
自民ならばSPEEDの今井絵理子議員だけでなく、その後見人たる山東昭子議員や、扇千景・元参院議長もタレント出身です。新進党を経て公明党に転じた松あきら・元議員もしかり。
共産党の吉良よし子議員も、初当選前は写真集「KIRAry Diary」を出版するなど、タレント的な売り出し方で注目を集めました。
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— 吉良よし子事務所 (@kirajimusyo) 2014年10月20日
党として、育てる覚悟はあるか
前述のタレント議員の中で、個人的に注目したのは、国土交通大臣や憲政史上初の女性参議院議長を務めた扇千景・元参議院議員です。
政界に挑む前は元タカラジェンヌ、あるいは「3時のあなた」司会としてお茶の間の耳目を集めていました。
当時は集票パンダとの風評もあったようですが、出馬を要請したのは福田赳夫・自民党総裁や大平正芳・幹事長(いずれも当時、のちに首相)らが責任を持って育て上げたことが後の大成につながりました。
中でも運輸大臣時に対処した三宅島の噴火や、国土交通大臣としての北朝鮮不審船への対処などは見事なリーダーシップを見せてくれました。
今回の市井さんの出馬にあたり、枝野代表はどこまで育て上げる覚悟をお持ちか。有権者がメディアに惑わされず、見るべきはそうした政党、もしくは領袖(りょうしゅう)の覚悟です。
市井さんに求めるものは「気概」
デイリー新潮からは酷評された印象の市井さんですが、せっかく国政に挑まれるからには、憲政史における「先達の系譜」を学んでいただきたいと切に願います。
個人的におすすめしたいのは、わが国初の女性国会議員の一人に数えられる松谷(園田)天光光さんです。
戦中期に早稲田大学法学部を卒業後は、海軍省報道部嘱託のカウンセラーを務めるなど当時のキャリアとしては男性候補と比較しても遜色ない。
それ以上に注目すべきは、出馬の動機であり、有権者に見せた「気概」でした。
戦後の焼け野原で横たわる遺体の数々を目の当たりにしたことがきっかけとなり、「餓死防衛同盟」という政治団体の設立に参画し、国政に初挑戦。
演説ポスターでは「廿八歳の我がいのち 民族死活のために捧げん!!」の演題を掲げるなど、火傷しそうなほどの情熱がほとばしっていました。
今回、市井さん挑戦のきっかけは「現役の子育て世代として」とのことですが、挑まれるからには覚悟のほどが気になります。
議員は民意の映し鏡
選挙という洗礼を経て、公人としての議員をめざす上では、有権者の支持獲得が欠かせません。
これは国政に限らず、基礎自治体の選挙でも同様です。
どのような区分であれ共通して言えるのは、議員としての政治家は有権者の支持を集められないことには誕生しません。
最後に決めるのは、よくも悪くも有権者の1票、その集積です。
そしてもう一つ肝心なのは、生まれながらの政治家や議員などはだれ一人として存在していないということです。
歴代の総理大臣や、憲政史に名を遺す著名な政治家はもちろん、尾崎行雄も同様です。
来たる参議院選挙では、誰が出るかは大きな問題ではありません。
私たち一人ひとりが「この国をどうしたいのか」。
メディアに惑わされず、よく考えたうえでの投票こそが一番大事です。
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高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト