トランプがG20絶賛・文在寅には場所貸しの御礼

八幡 和郎

今週の「夕刊フジ」に「令和日本と世界」というタイトルで連載をしている。G20以降の国際情勢をもう少し長期的な展望とからめて書いている。だいたい翌日の午後には電子版zakzakに転載されるので、そのあとに、補完したうで、同様の視点の内容を紹介したいと思う。

第1回に書いたのは、『米朝会談、トランプ大統領のビジネスマン流交渉術正恩氏の苦境救う 文大統領は「北朝鮮のソウル駐在大使」的日朝交渉は焦る必要なし』という内容だ。

White House/flickr:編集部

大阪でのG20(20カ国・地域)首脳会合は、大成功のうちに終わった。ドイツとアルゼンチンでの前2回のG20が惨憺(さんたん)たる結果に終わり、世界主要国の亀裂を見せつけた後だけに、「対立から未来志向の協力」へ流れを変えられたのは、想定し得る範囲で最高の成果だった。

米中の通商交渉再開も、ドナルド・トランプ米大統領が南北軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と歴史的な会談ができたのも、G20での良いムードがあればこそ実現したものだ。

トランプ米大統領はツイッターで、大阪G20について、「欠けているものとか失敗は何もなかった。完璧であった」「このように素晴らしく、うまく運営されたG20を主催した安倍首相に祝意を伝えたい。日本国民は首相をとても誇りに思うはずだ」と書いた。


このことの意義は大きい。なぜなら、これまでマルチの会議でトランプ大統領は、自業自得とはいえ不愉快な思いをし、それが、マルチ協力嫌いを加速させていたように見える。それが、よい扱いを受けたことで、多少なりとも多国間の話し合いに前向きになる期待ができるからだ。

トランプが、金正恩との会談を突然に思いついたかどうかは不明だ。もちろん、韓国に行く以上はその可能性はあるとみられていた。

ただ、ツイッターでの提案が、金正恩にとってはサプライズだったのは間違いない。

板門店にて3首脳会合(White House/flickr:編集部)

ハノイでの米朝首脳会談決裂以来、正恩氏は国内で苦境に陥っていた。それを救い出す必要があったが、通常の交渉をすると、北朝鮮はあれやこれや策を弄してくる。国内の強硬派も反対するだろう。だからこそ、迷う時間も余地のないかたちで提案することは、ビジネスマンならではの賢明な交渉術であった。

文在寅大統領も、まったく知らされていなかったようである。何とか、トランプ氏の訪韓前に南北首脳会談を開いて、メッセンジャーをしたがったが、北朝鮮から「仲介役でもないのに、口を挟むな!」と罵られただけだった。この会談についていかに韓国が後追いだったかは、次の中央日報の記事が雰囲気をよく伝えている。

「(米韓首脳会談晩餐会が行われているころ)尹建永室長は夜を明かして状況を見て30日午前8時板門店に走って行った。すでに米朝実務交渉が行われていた。」

「当初青瓦台は文大統領が金委員長と先に会ってトランプ大統領に紹介する絵を描いていたという。しかし、米国が反対した。」

「警護の問題に合意した米朝は30日午前、具体的な動線などを協議した。協議は韓国側の公式窓口である青瓦台状況室長が到着する前から進められた。最初から「南・北・米」でない「米・朝」首脳会談に決定されて行われたことを意味する」

「ある実務関係者は「当時米朝は二国間会談を前提にしていたため、韓国メディアは考慮しなかった」と伝えた。実際に会談当時、韓国メディアの生中継カメラは米朝メディアに押し出されて揺れた映像を送出せざるを得なかった」

「文大統領は韓米首脳会談の間「重要なのは米朝対話」としてトランプ大統領を褒め称えた。トランプ大統領は会談を終えた後、参謀陣を退かせて文大統領に会談の結果を耳打ちで直接伝達した」

しかし、文氏は米朝対話においては好都合な大統領だ。

北朝鮮の利益を図るために行動するだけだから、独自の立場がないし、メンツを立ててもらうことにも拘泥しない。今回もトランプ氏が軍事境界線を越えるときにも姿を現さず、正恩氏と一緒に戻ってきたときにあいさつに現れたが、米朝首脳会談にも同席させてもらえなかったようだ。

トランプ訪日時には、安倍晋三首相とのゴルフに駐日米国大使が参加を希望したがかなわなかったことが報道された。それと同じで、「北朝鮮のソウル駐在大使」的な自分の立場をよくわきまえて、邪魔しない好都合なキャラクターだ。

トランプのツイッターを見ても「金(正恩朝鮮労働党)委員長ととても良い会談を持てたのは素晴らしかった。皆に良いことが起こるだろう」と、文大統領へのお礼はホテルの支配人に対するもの程度にしか見えない。

これから米朝の実務者協議が再開され、いい雰囲気になれば、正恩氏をワシントンへ招待したいというような提案もあったようだ。中国の習近平国家主席と同様、北朝鮮の独裁者といえども、トランプ氏を相手にしては掌で踊るしかないのである。

そして、そのトランプ氏の「最も信頼する友人」としての安倍首相の立場の強さも際だったものである。

日本は、北朝鮮との交渉で焦ることはない。北朝鮮再建のための経済協力は、拉致問題の全面解決などで日本が納得しなければ、払わねばいいだけのことなのである。

八幡 和郎
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授