トランプ米大統領が先月30日、南北軍事非武装地帯の板門店で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会談したが、それに先立ち、トランプ氏は現職の米大統領としては初めて北側領地に足を踏み入れた。その歴史的イベントが報じられると、世界に約13億人の信者を有する最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会の総本山ローマ法王庁でもバチカン放送(独語版)が至急電で大きく報じた。
ハノイの第2回米朝首脳会談(今年2月)が両国の非核化政策で対立して決裂したばかりだった。その両国首脳が再会を決め、板門店で会合したわけだ。バチカン放送によると、ローマ法王フランシスコは同日、板門店でのトランプ・金正恩首脳会談に対し、「想定外だったが、出会いの文化の美しさを我々に見せてくれた」と述べ、トランプ氏のツイッターでは「数分間の挨拶」の予定だったが1時間余りの会談に延長されたことに対し、「米朝間の対話が生き続けている」と評価している。
フランシスコ法王が米朝首脳会談についてその日のうちに自身のコメントを公表するのは異例だ。それだけに、フランシスコ法王が南北分断の朝鮮半島の行方に強い関心を有していることを示した。
フランシスコ法王は、「関係者の努力を歓迎する。その歩みが朝鮮半島だけではない、全ての世界の平和をもたらす道を切り開いてくれるように祈りたい」と述べている。ちなみに、フランシスコ法王は2014年8月、韓国を司牧訪問し、南北に分断された朝鮮半島で紛争が再発しないように、平和のための祈りを捧げている。
韓国カトリック教会でも第3回米朝首脳会談を歓迎する声が聞かれる。韓国大田広域市の Lazarus You Heung-sik 司教は「良き知らせだ」と喜びを吐露し、「ハノイ会談は報じられたように破綻はしておらず、トランプ大統領と金正恩委員長は相手を一層深く理解しあったのではないか。この出会いが更に発展することを希望する」と述べている。
ちなみに、自身もカトリック教徒の韓国の文在寅大統領は今回の板門店での第3回米朝首脳会談について、「非核化と平和について朝鮮半島の8000万人に希望を与えた」と評価している。
韓国では先週、「韓国動乱」勃発69年を迎え、追悼集会が開かれたばかりだ。同動乱では300万人が犠牲となり、南北分断という悲劇をもたらした。Lazarus You Heung-sik司教によると、「北の国境線から数キロ離れた村で追悼ミサを開き、平和と祖国の統一のために祈った。同ミサには2万人が参加した」という。
ところで、フランシスコ法王は今年11月、日本を訪問する予定だ。日本では長崎と広島の被爆地を訪問し、世界に向かって核全廃を訴えるという。以下は当方の勝手な考えだが、フランシスコ法王もトランプ氏に倣って南北非武装地帯を訪問し、そこで金正恩委員長とサプライズ会談を開いたらどうだろうか。
フランシスコ法王には平壌を訪問するより容易であり、金正恩氏にとっても負担は少ないはずだ。そのうえ、ローマ法王と金正恩氏の会談はトランプ氏と金正恩氏の会談を凌ぐニュース・バリューがある。フランシスコ法王は北の国民が厳しい食糧不足に陥っていることを知っているから、金正恩氏は世界にネットワークを持つカトリック教会を通じ食糧支援を要請するという道もある。金正恩氏にとって損はないはずだ。
板門店でフランシスコ・金正恩会議が実現すれば、世界も驚くだろう。ここで忘れてほしくないことは、第3回米朝首脳会談は、大阪市で開催された20カ国・地域首脳会談(G20サミット)後、トランプ氏が朝鮮半島に足を運び、実現されたことだ。同じように、フランシスコ法王も訪日後、朝鮮半島まで一飛びし、板門店で金正恩氏と非核化、南北再統一、そして食糧支援問題で意見を交わすのだ。
全ていいことは日本からやってくるのだ。反日で教育され、日本への憎悪が深い南北国民にとっても、トランプ氏ばかりか、ローマ法王をも朝鮮半島まで運んでくれた影の功労者、日本に対して感謝が生まれてくるのではないか。
トランプ大統領ができたことだ。アルゼンチン出身のローマ法王ができないはずがない。ローマ法王の外遊には長い準備が必要だが、南北に分断された朝鮮半島にはそんな悠長なことを言っておれない。フランシスコ法王は日本を訪問中、ツイッターで金正恩氏宛てに会合の期待を吐露すればいいだけだ。口頭といえ、金正恩氏は昨年9月、文大統領を通じてフランシスコ法王を招請済みだ。
金正恩氏はこれまで米ロ中の国家元首と会談してきた。その会談リストにフランシスコ法王の名前を加えれば、金正恩氏は、良し悪しは別として、国際指導者の仲間入りだ。
ついでながら、フランシスコ法王は日本で安倍晋三首相から金正恩氏宛ての親書を受け取り、板門店での会談で金正恩氏に手渡し、「安倍首相と日朝会談をすべきだ」と助言すれば、フランシスコ法王の調停外交に更に花を添えることになる。繰り返すが、朝鮮半島で良き知らせは日本からやってくるのだ。決して、中国大陸からではない。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月3日の記事に一部加筆。