参院選に向けた去就が注目されていた山本太郎参議院議員(れいわ新選組、東京選挙区)は3日、全国比例区に鞍替えして再選をめざす方針を明らかにした。自由党(当時)の小沢一郎氏とたもとを分かった今春から全国各地の遊説に力を入れてきた経緯から、比例区転出の見方も取りざたされていたが、公示前日にようやく布陣を明らかにした。
山本氏の転出により、各党や報道機関の情勢調査で8番手に沈んでいた維新公認の音喜多駿氏は、わずかではあるが、当選圏入りの兆しが出てきた。ただ、その音喜多氏も昨晩のブログで「この決断については舌を巻くばかり」と刮目していたのが、れいわ新選組の特定枠の活用だ。
特定枠活用で自らの落選リスク大に
特定枠の詳しい説明はリンク先の産経記事に譲るが、今回の参院選から導入される新しい仕組みだ。山本氏は、党が議席を確保した場合、優先的にその権利が割り当てられる特定枠について、ここ数日、擁立を発表していた2人の身体障害者の候補予定者を当てるという。
山本氏個人としては、全国各地から記録的な得票を集める可能性はあるが、れいわ新選組としては3人以上の当選枠を確保しなければ、再選の芽はなくなる。
山本氏の親衛隊ライター、田中龍作氏が「決死の特攻出馬」と評すように、比例で3人以上当選させるには、最低でも300万票以上はかき集めなければならない。さしもの山本氏といえど、“ひとり新党”の少数勢力がこの票数を集めるのはかなり難しい。
党首である自身の再選を前提に手堅い布陣を組み立てるのであれば、情勢調査で再選が確実視されていた東京選挙区から出馬した上で、選挙戦中は「党首」として、全国各地の県庁所在地などの重点地域を回って比例枠の「なかまたち」の当選をめざすというのが常道だろう。
山本氏はここまで、日本では目新しい「反緊縮」路線を打ち出し、小口主体の献金で2億円を集めるなど、話題づくりには成功した。ただ、朝日新聞が6月22、23日に行った情勢調査では、政党支持率は0%、比例の見通しは1議席の確保にとどまった。そこで自身の東京での再選プラス比例1〜2枠の確保により、今後の野党再編を仕掛ける橋頭堡を築く戦略に落ちつくと予想された。
不可解な「布陣」から何を読み取るか
実際、筆者旧知の名だたる選挙プランナーたちも昨日までは、山本氏の東京出馬を確定的にみていたくらいだった(筆者もそうだった)。しかも、東京選挙区では、自身の“後継”として擁立するのが、沖縄創価学会壮年部の野原善正氏だという。比例票なら沖縄地域の学会員から造反票を集める意味もあるが、東京で改選を迎える公明党の山口代表をdisりまくる運動目的にしか思えない。
ツイッターでは山本氏の支持者などから、知名度で本人に次ぐ存在の蓮池透氏を望む声も相次いでいたが、蓮池氏は結局比例区からの出馬となる。全くもって不可解な布陣であり、東京選挙区で最後の枠を争う立憲民主党の山岸一生氏と維新・音喜多氏の陣営関係者は「蓮池さんでなくてよかった」と、胸をなで下ろしていた。
しかし、山本氏や、その脇を固める選挙プロや経済学者、元読売新聞記者などのブレーンたちが、わざわざ無謀な戦いを仕掛けるようには思えない。田中龍作氏は先述の記事で「(筆者注・安倍政権の)暴政を食い止めるための『特攻出馬』であるとすれば、気持ちは美しいが悲しい」と美化するものの、額面通りには受け取れまい。
ここからは筆者の仮説だが、山本氏が本気でこの参院選での当選、躍進をめざしているのであれば、この布陣は「特攻出馬」というよりも「背水の陣」という意図があるのではないか。山本氏の落選リスクを敢えてギリギリまで増やし、支持層の士気を極大化。学会も驚きのフレンド票の開拓でうねりを作り出すための「演出」だ。
とはいえ、自身の落選リスクは非常に高い。自身の求心力で比例区は党としては得票率2%以上の政党要件を確保できるかもしれないが、近年の参院選比例区で200〜300万票を獲得したのは、2010年の共産党(356万票、当選3)と社民党(224万票、当選2)。この時の共産党は民主党政権下の埋没時だったとはいえ、全国に張り巡らせた地方議員の数などを考えると、組織のないれいわ新選組が果たして同じくらいの得票を集めることができるか微妙だ。
衆院選?都知事選?注目される「深謀遠慮」
そうなると、山本氏の狙いはもう少し先を見据えた中期戦略の一手を打ってきたのではないか。今回は党勢拡大と政党要件確保(得票率2%以上)を最低限の目標とし、自身は落選するも比例で1〜2人を当選させる。
それでも2人当選なら公設秘書として計6人のスタッフを税金で雇用できる。政党要件さえ満たせば交付金もゲット可能だ。安倍首相は任期中の近い将来、必ず衆院を解散するはずだから、今回集めた2億ほどのお金の残額と合わせて「軍資金」として備える。
もしオリンピック前までに衆院選がない場合は、来年7月に都知事選がある。ここで山本氏が名乗りを上げ、美濃部亮吉氏以来となる41年ぶりの革新都政の実現をめざして劇場型選挙の見せ場となりかねない。
求心力の落ちた小池氏に、与野党がそれぞれ別の候補をぶつける乱戦となった場合、ひょっこり都知事の座に収まって開会式の旗振り役を務める「悪夢」が起きはしまいか。真夏の世の怪談どころではない恐ろしい事態だ。
13兆円の予算執行の権力を握って東京版MMTをおっぱじめ、議会対策も、主なき後、都議選に負けそうな都民ファースト会を傘下に収める。安倍政権、自民党にとって小池氏以上の厄介な存在になろう。
もちろん、小池氏に騙されたばかりの東京都民がそんな勝手放題は許すとは思えないが、いずれにせよ、山本氏とれいわ新選組の謎の参院選布陣にそうした「深謀遠慮」が働いているのか、想像する程度であれば、盛り上がらない参院選の数少ない「興趣」にはなろう。
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」
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