独週刊誌シュピーゲル(6月22日号)によると、ドイツでは2017年の段階で、5人に1人が自分の体に刺青(タトゥー)を入れ、25歳から34歳の女性に限ると、その割合は2人に1人となるという。記事を読んで正直驚いた。刺青は欧州社会では市民権を完全に獲得しているわけだ。
当方が日本にまだ住んでいた40年前、刺青をしている人を見ることはほとんどなかった。刺青をしている人を見たら、「多分、ヤクザのお兄さん」と思って、好奇心と少し恐れを感じながらちらっと振り返ったものだ。日本で現代、何パーセントの国民が刺青をしているか知らないが、刺青をする国民の数は増えているだろうが、欧州社会のような状況にはまだほど遠いだろう。
当方が住むオーストリアでもドイツと同じ傾向がみられる。16歳から30歳までの若い世代では25%が刺青をしている。同国には600人以上のプロの刺青師がいる。そのほか、ハンガリーやチェコから不法な刺青師が入ってきている。
日本では昔、「刺青はヤクザ社会」の専売特許といった感があったが、欧州では特定の職種に刺青が多いといった傾向はみられなくなった。一般の労働者から弁護士、大学教授まで刺青をする社会層が広がっている。
刺青と職場の関係では、刺青をしている社員が会社で差別されるとか、入社試験に合格しないといった差別はない、という記事がオーストリアの日刊紙クリアで報じられていた。もちろん、刺青をする場所によるが、刺青をしていて仕事の支障とならない限り、会社の上司から文句が出ることはない。時には、「面白い」とか「独創的」といった評価すら聞かれるという。
考古学によると、刺青の歴史は人類歴史と同じように長い。刺青は自身が所属している社会、グループを表示する一方、それに対して忠誠を表明する手段のように受け取られていた、という学者の報告もある。現代の若者は愛する人の名前を腕や胸に刺青する場合が結構多い。刺青することで変わらない愛を自分の体に表現するわけだろう。
体中を刺青をしている元プロサッカー界の英雄デビッド・ベッカムを思い出してほしい。当方が好きな米CBS映画シリーズ「ハワイ・ファイブオー」の主演アレックス・オローリンも両腕に刺青をしている。有名人の刺青に刺激されて、体に刺青をする若者は多いだろう。ちなみに、クリスティアーノ・ロナウドは「自分は定期的に献血しているから、体を傷つけることはできない」として刺青を入れていない数少ないサッカー界のトップスターだ。
ところで、なぜ突然、刺青かというと、当方が近い将来、刺青をしたいと考えているからではない。東京で2020年、夏季五輪大会が開催される。多くの人が海外から五輪競技を見るために日本を訪問するだろう。スポーツ競技の観戦後、日本を観光する。その時だ。
ドイツ人の若い女性が日本の伝統的な温泉を体験したいとする。日本のメディアによると、刺青をしている客は大衆風呂や温泉に入ることができない(温泉地でも部屋専属の温泉もあるから、他の客の反応を心配せずに温泉を楽しむことができる)。問題は、外国観光客が刺青をしていた場合、日本の観光地の温泉などを利用する際に問題が生じる懸念があることだ。
欧州では2015年、中東・北アフリカから多くのイスラム系難民が殺到した。難民のイスラム教徒とキリスト教文化圏の欧州では様々な文化的軋轢、衝突が起きてきた。その一つはイスラム女性のスカーフ、ブルカなどの服だ。体を服で覆った姿で海やプールで泳ぐイスラム教の女性の姿が時たま、報じられている。その写真を見るたびに、欧州人はやはり異様に感じる。同じことが、外国人の刺青文化に対して日本人が懸念したり、異様に感じる事態が出てくるのではないか。刺青には政治、エロチック、宗教性など様々な要因が含まれている。刺青の扱い方次第では国際問題に発展する危険性も排除できない。
ちなみに、欧州では多くの若い世代が一種のモードとして体に刺青を入れるが、その刺青を消すための方法もレーザー除去から皮膚移植など多種多様に出てきている、早まって刺青をしたが、その刺青が重荷となってきたので消したい、と刺青師に泣きつく若者もいるという。そこで最近では、刺青師は「当方、安全に清潔な方法で刺青を消します」と宣伝しているという。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月4日の記事に一部加筆。