写真というのは雄弁なものだ。「闇営業」という言葉も、たいがい印象の悪い言葉だが、宴会場の不鮮明で手ブレ感著しい写真数枚からも、それがどのような性質の宴会で、吉本芸人たちがいかにプライドをかなぐり捨ててサービスしているかが伝わってくる。印象を言葉にすれば「さもしい」だろうか。
これでは、日頃から彼らに好印象を抱き、心情的には応援さえしてきた多くのファンが怒るのは当然だ。スポンサー企業しかりであり、無期限謹慎という処分は大変重いものだが同情する気もわかない。だが、何かモヤモヤする。
そもそも、一番悪いのは反社会的勢力では?
私にとってモヤモヤ感の一番の要因は、芸人ばかりがバッシングされて肝心の「反社会的勢力」に対する憤りを示す視点がほとんどの報道や世の中の声から欠落していることに対する違和感だ。
日本人は総じて「生命・身体犯」に対して、「財産犯」に対する非難の度合いに極端な差がある。典型的には、自転車窃盗に対する微温的な対応などは典型である。
原因は、盗まれることが即生命に直結するほどの貧困さを克服した社会であることもあるだろうし、そもそも落とした財布が結構な確率で手元に戻るほどの社会のありようから、経済的な犯罪に出くわす危機感が顕在化するほどには大きくなかったこともあるだろう。
しかし、「特殊詐欺」というのはあらためて考えるに、相当に卑劣な犯罪だ。まさに、日本ならではの経済犯罪に対する免疫のなさを逆手にとり、特に世代的にも親切をモットーとする人々、質素倹約を旨として蓄えた老後資金を無慈悲にも奪い取ろうという、ゲスもここに極まるという犯罪だ。
警察関係者も撲滅にやっきになっているだろうが、残念ながら延々となくならない。その背景に、社会の怒りが沸点レベルにまったく遠く、極端に言えば「命まで取られたわけではない」的な生ぬるさがないとは言えないのではないだろうか。そんな、社会の空気感のあいまいさを詐欺集団は巧妙についている。
自分さえよければ良いという考えの「闇依頼」
だが、彼らの自分たちさえ儲かれば、人はどうなっても良いという考えは、今回宴会の依頼ひとつをとっても存分に発揮されている。自分たちの職業、宴会の目的、出演して欲しい理由を明かせば断られることがわかっているから、友人の誕生会、企業の忘年会という「ウソ」をつく。いわば「闇依頼」である。
ホテルに身分を隠して宿泊した暴力団関係者は詐欺罪で捕まる。
組員の身分隠しホテル宿泊、詐欺容疑で任侠系組員逮捕 兵庫県警(産経WEST)
ゴルフ場でもそうである。
暴力団員が身分を隠してゴルフ 長野県警、詐欺容疑で逮捕(産経新聞)
今回の件が詐欺罪に即座に該当するかは別として、身分や意図を隠して騙した行為は十分非難に値するだろう。実際に結果は重大である。テレビ局は大きな費用をかけて対応を迫られ、宴会に参加した芸能人は職を失う危機だ。しかも、それを演出しているのが当の不法集団の一員が流出させた写真というのだからなおさらだ。まんまと、反社会的勢力の意図にメディアや世間が踊らされているとすれば、まだまだ世に出てきていない「宴会写真」はさぞ良い値段がつくに違いない。
「信頼」という日本社会の美質を毀損させる勢力
カタギの世の中で、どんなに成功していても現金をバラまいてほめられる社長はいないだろう。今回、お金欲しさに裸になったり、歌ったりする芸人もさもしいが、人から巻き上げたカネをこれ見よがしにばら撒いて喜んでいる詐欺集団はもっとさもしい。
しかも、さもしいだけでなく彼ら詐欺集団は、相互の善意を基本的には信頼し前提にできることで、資源がないにも関わらずなんとかやってきた日本社会の本質、成立の基盤をも営々と崩壊させようとしている。
「さもしさ」の「闇」が、日本社会から奪うもの
テレビキャスターの某氏は「いまどき、タレントと事務所で契約書も交わしていない」と大げさに吉本興業を指弾していた。ビジネスの技術論としては正論の部分があるのだろうが、本来契約書がなくても契約・仕事関係は成立するし、何も「契約書」の紙の束が素晴らしいものであるわけでもなんでもないのだ。
世の中が信頼関係で問題なく成立していれば契約書など必要ない場合も多い。まして「お笑い」の世界、吉本興業などは典型的に「契約書」など生涯見たことも聞いたこともないという人々に働く場を提供してきたわけだし、そんな「ニッチ」さえない社会が素晴らしいとは思えない。
かくして、不法集団の「さもしさ」は、日本社会から「信頼関係」の美質を奪い、テレビから「笑い」を奪い、世の中から愛されてはいるが身分も保障もない人々が生きる「ニッチ」さえも奪う。
「大らかで明るい」日本を「さもしさ」の「闇」で汚している輩への当たり前の怒り。我々のまっとうな社会を守るために、そんな視点を忘れるべきでないと考えるのだがいかがだろうか。
秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。秋月涼佑のオリジナルサイトで、衝撃の書「ホモデウスを読む」企画、集中連載中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki