選挙をやるたびに肥大化する政府

空文化する市場経済

参院選が公示され、21日の投開票日まで、選挙戦が繰り広げられます。選挙は民主主義制度を支える不可欠な基盤なのに、選挙をやる度に、政府は肥大化し、財政や金融状態は劣化します。民主主義と市場経済は現代社会を動かす車の両輪であるはずなのに、政府の肥大化で両立は難しくなっています。

参院選直前の党首討論に臨む7党の党首ら(日本記者クラブHPより:編集部)

安倍政権は「3度目の正直」で、10月に消費税を10%に引き上げます。5.2兆円の増収になるはずなのに、消費税の使途を大幅に広げ、幼児教育、防災・減災対策、ポイント還元策などにも回し、社会保障費の財源確保という本来の目的に使われるのは2兆円です。増税による景気への悪影響を防ぐというより、7月の国政選挙対策として仕込んだ措置でしょう。

このため、19年度予算の歳出規模は拡大し、過去最大の101兆円、5年連続で100兆円(決算ベース)を超えます。おそらく今年度も決算ベースでは、当初予算より大きな数字になることでしょう。

財政再建計画もあるにもかかわらず、予算が膨張し続けているのは、選挙対策の影響が大きく、政治がそのことを口に出して言わないだけのことです。ここで踏みとどまればいいのに、安倍首相は「(消費税10%の後は)10年間くらいは、上げる必要はない」と、党首討論会で明言しました。10年間もですか。政府内部で練り上げた案とも思えず、選挙目当てのリップサービスですか。

では野党どうかといえば、「野党各党は消費税を上げられる状況にないということで、完全に一致している。それに代わる財源として、法人所得税の引き上げ、個人所得税の累進性の強化がある」(枝野・立民代表)と、これまた選挙向けの発言です。公約を実現する力は野党にはありません。

財政赤字が1000兆円超というのに、毎年、巨額の赤字国債(19年度は32兆円)を出し続けられるのは、日銀が異次元金融緩和の名のもとに、市場から国債を買い上げるからです。日銀の国債保有残高は500兆円(総残高の43%)に達し、財政赤字の肥大化(政府の肥大化)に手を貸しています。

名ばかりか日本の市場経済

日銀は金融緩和策の一環として、上場投資信託(ETF、株式のこと)を25兆円も買っています。国内市場規模の7割にものぼり、国債保有と同様、こんな国は他には存在しません。日銀による「市場支配」が進み、民間投資家が活躍する場がありません。市場による需給調整が後退しており、「日本の市場経済は名ばかり」の状態です。

自民党といえば、自由主義経済の旗振りをするはずなのに、やっていることは、国家主導型経済です。選挙対策で国民受けすることに懸命で、気がついてみれば、経済・市場の国家管理の道を走っているのです。効率の悪い産業・企業も簡単につぶさない。

「経済成長によって税収を増やし、財政を再建する」(安倍首相)といっても、経済成長率は先進国で最低ランクの年1%程度の実績では、無理な話でしょう。

最近、勢いを増している国債増発論は、これしか日本の道はないということでしょうか。財政再建を目指し、異次元緩和を正常化すると、経済、景気に偏重が生じる。それなら、無理をしないで、乱暴な議論でも、やれるところまでやってみる。破綻するよりましという考えですか。その先に何が待っているかは、関知しないということでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。