トランプ米政府は中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が中国のスパイ活動を支援しているとして米国市場から追放する一方、カナダや欧州諸国にも同様の処置をとるように働きかけてきた。米国政府は今年に入り、カナダ政府が昨年12月、米政府の要請で逮捕したファーウェイ社の創設者任正非氏の娘、孟晩舟・財務責任者の引き渡しを要求したばかりだ。
ちなみに、トランプ大統領は先月29日、ファーウェイへの制裁で「米国の安全保障に影響のない製品に限定して、その輸出を認める」と表明し、ファーウェイへの一部制裁緩和と報じられたが、「制裁は変わらない、最新技術が絡んだ製品やソフトウェアに対しては引き続き禁輸だ」(米政権)という。
ところで、ファーウェイは米国のスパイ活動関与疑惑に対しては常に否定してきた。その根拠として、①ファーウェイは中国の国営企業ではなく民間企業、②ファーウェイのスパイ容疑を実証する技術的証拠が見つかっていない、という2点が挙げられてきた。
当コラムでは、①に対してはファーウェイが登記上、民間企業であったとしても、ファーウェイを管理している最終的権限は中国共産党政権下にあることを説明してきた(「ファーウェイは実質的には国有企業」(2019年4月26日参考)。そして、②に対してはファーウェイが製造したノートパソコンに、不正アクセスのための侵入口であるバックドアが設置されていたという海外反体制派メディア「大紀元」の記事を通じて報告済みだ。なお、米紙ワシントンタイムズも今月に入り、「ファーウェイ製品の55%に侵入裏が見つかった」という情報を報じている。
「大紀元」によると、米IT大手のマイクロソフトは今年1月、ファーウェイが製造するノートパソコンに、不正アクセスのための侵入口であるバックドアが設置されているのを見つけた。マイクロソフトは3月25日に公開したセキュリティ情報で、ファーウェイ製ノートパソコン、MateBookに搭載されているPCManagerソフトウェアを使うと、権限のないユーザーでも、スーパーユーザー権限でプロセスを作成できると警告している。ファーウェイが開発したデバイス管理ドライバーが原因だ。マクロソフトの報告を受け、ファーウェイ社は1月19日、ソフトウェアの修正プログラムを発表している。
残る問題点は、ファーウェイと人民解放軍、情報機関との関係だ。英紙デイリー・テレグラフ5日付によると、英外交政策シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ(HJS)がファーウェイ社員の履歴書を分析したところ、ファーウェイが中国当局と強い繋がりがあったと報じている。
HJSが入手したファーウェイ社員の履歴書は2万5000人に及ぶ。大紀元によると、同履歴書はフルブライト大学ベトナム校のクリストファー・バルディング准教授が見つけたもので、中国就職情報サイトに掲載されていたという。それらを調査した結果、「ファーウェイ社員と人民解放軍、情報機関との間にはシステム化かつ構造化した関係が浮かび上がってきた」(大紀元)というのだ。
以上、技術的実証、ファーウェイ社員の履歴書の調査結果などから、「ファーウェイは中国共産党の人民解放軍、情報機関と密接な関係がある」とほぼ結論を下すことができる。特に、今回、ファーウェイ社員の履歴書の内容が報じられるに及んで、チェスでいえば、チェックメイト(ゲームオーバー)だ。実際、ファーウェイの創設者、仁正非氏は中国人民解放軍出身であり、上級副社長兼最高法務責任者の宋柳平氏は中国軍の高級教育機関、国防科技大学で博士号を取得している。
なお、宋柳平氏は先月27日、「知的財産権は私的所有権であり、法により保護されている。知的財産権に係る紛争は司法プロセスを通じて解決されるべきだ。ファーウェイは過去30年間において、悪意ある知的財産権の盗用・剽窃に関与したとの裁決を受けたことはなく、そのためこうした行為に対する損害賠償を求められたことはない」(ファーウェイ公式サイト)と強調している。 ファクトチェックが必要な発言だ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月10日の記事に一部加筆。