潜在意識と目標達成をミックスした興味深いメソッド

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出版科学研究所は、2018年の紙の出版販売額が約1兆2800億円台になることを発表した。前年実績から6.4%の減少で、14年連続で前年実績を下回る。

しかし、出版不況といわれながらも出版には根強い人気がある。サラリーマンや主婦の書いたビジネス書がベストセラーになるなど、本のもつプレゼンスの高さに注目が集まっているのである。

今回は『願いを叶える「月眠り」の魔法』(clover出版)を紹介したい。著者は、ティッツェ幸子さん。本書は、精神科医の樺沢紫苑氏が「ブログ(2019.07.02)」に紹介しているので併せてお読みいただきたい。

■自律訓練法に近い理論である

実は、本書で紹介されているアプローチは既に効果が実証されているものが少なくない。「ミカン集中法」という集中力を高める方法がある。この方法は、自分の頭の上にミカンがあることをイメージするものである。

この方法は、1932年ドイツの精神科医シュルツ博士が開発し、広くつかわれている手法になる。この方法をマスターすると、あがる、手が震える、声が上ずる、汗をかく、赤くなる、といった「対人恐怖症」が軽減されるなどの効果があると言われている。

まず、服をゆるめ、両腕を軽く伸ばし、両足は少し開いて、仰向けに寝る(イスに座る)。
(1)軽く目を閉じて、ゆっくりと腹式呼吸する。呼吸のリズムが一定してくる。
(2)息を吐くときに「気持ちが落ち着いている」と頭の中で唱える。3回繰り返す。

次にゆっくりと四肢の重感練習をおこなう。
(1)「右手が重たい」→「左手が重たい」→「右足が重たい」→「左足が重たい」。
(2)息を吐くときに合わせて、頭の中で唱えます。3回ずつ繰り返します。

今度は四肢の温感練習をおこなう。
(1)「右手が温かい」→「左手が温かい」→「右足が温かい」→「左足が温かい」。
(2)手足の重感、温感を感じることができたら同じ要領で唱える。

練習が一通り終わったら、両手を握り、少しずつ力を入れて、屈伸してから、大きく伸びをして深呼吸をしながら目を開くというものである。

この方法は、世界的に有名なコンサルティング会社に在籍しているとき、プレゼンスキル向上の重要テクニックとして考えられていた。この会社では、この一連の手順を踏んだあとに「魔法の言葉」を唱える。これは自分を奮い立たせる言葉になる。

筆者は、過去に成功をおさめた報告会の場面を思い浮かべるようにしていた。場所は大手上場企業の会議室。社長以下、役員が30名近く座っている。この報告会をしくじったらコンサルフィーは回収できない。毎日、暗記するくらい繰り返し練習をした。

結果は成功で、その後の発注もいただいた。非常に大きな自信につながったことを覚えている。それ以降、スピーチや、報告会、プレゼンの前には、このときの様子を思い浮かべるようにして臨んでいるが、要領は自律訓練法と同じである。

■潜在意識を上手く活用するのがポイント

本書の興味深い点は、自律訓練法を目標達成に結びつけている点である。「潜在意識」を上手に使うことで、目標達成が可能になるとしている。潜在意識に対するアプローチは、ティッツェ幸子さん独自のものになるが、非常に興味深い内容である。

潜在意識に、思考と行動を合わせていくことで自分自身の姿が投影されていく。理想の生き方に気づき、深い眠りを得ることでこころとカラダのバランスがとれてくる。筆者は「潜在意識と目標達成をミックスしたメソッド」だと理解した。目標達成ができれば、自分自身の「あるべき姿」を確立することも難しくはない。

精神科医シュルツ博士(Johannes Heinrich Schultz,1884-1970)は、神経症の原因を広範な見地から研究し細かく定義し分類していた。日本の成瀬悟策(1924年~)臨床心理学者、医学博士、臨床心理士)との共著で『自己催眠』(誠信書房、1963)を出版している。なお、今回、出版の夢を実現させた、ティッツェ幸子さんの前途を祝したい。

[本書の評価]★★★(75点)
評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し  「レベル0!読むに値しない本」50点未満

尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)
14冊目となる著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を上梓しました。