コーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳの条項は本当に実施されているのか?

先日、ある研究会で、某社の経営企画・IRを担当されている方(Aさん)の発表を拝聴する機会がありました。某社はガバナンス強化にも熱心で、世間的にも極めてクリーンなイメージで知られたメーカーさんです。当社に中途入社で採用されたAさんは、IRを担当される中でガバナンス・コードも熱心に勉強されたそうですが、A氏曰く「そういえば補充原則3-2②のⅳでは外部の会計監査人から不正を発見したり、不備や問題点を指摘された際の会社側の対応体制の確立が求められているが、そんなことを会社で議論したところを一度も見たことがない」とのこと。当該研究会では、もっと実務的に重要な論点に聴講者の質問が集中していましたが、私はどうも、AAさんの当該発言にひっかかっておりました。

某社のガバナンス報告書を確認しましたが、この補充原則はエクスプレインしていないので、間違いなく実施しているはずです(ただ、コードでは実施状況の開示が要請されていないので、どのように体制を確立されているかは外部からはわかりません)。補充原則で示されている「会計監査人が不正を発見して、会社としての対応を求めた場合」というのは、金融商品取引法193条の3に基づく是正要求通知がなされた場合よりももっと広くとらえるべき、というのが立案担当者の説明ですが、某社に限らず、実際に会社がどのような対応体制を確立しているのか、よくわかっていないのが実態ではないでしょうか。会社として対応が求められる「不備や問題点の指摘」というのも、いったいどのような指摘を指すのか、これもよくわからないところです。

「実施している」と公表しながら、実施していなければ東証の規則違反であり制裁の対象となります。もちろん、これを放置しておりますと、取締役の職務執行上の善管注意義務違反となりますから、この点はおそらく監査役、監査委員の皆様も確認はされているはずです。

たとえば①「不正を発見して会社としての対応を求めた場合」「不備、問題点の指摘を受けた場合」とは、具体的に会計監査人からどのような指摘があった場合なのか、②これに対して対応が必要かどうか判断する機関はどこなのか(取締役か監査役等か、それとも取締役会か)、③対応が必要と判断した場合、具体的にどのような対応をするのか、といったところは最低限度、平時から確立していなければならないと思います。

このあたり、他社ではどのようにされているのでしょうか?また、監査役等の皆様も、対応体制の確立がどの程度まで行われていれば善管注意義務を尽くしている、と判断されているのでしょうか?

最近の会計不正事案において、外部の会計監査人に情報提供があるものの、ずさんな社内調査のためにうやむやとなり、その後監督官庁に内部告発がなされて発覚するケースが散見されます。私の感覚では、高額な費用を伴う第三者委員会調査に至るよりも、件外調査を含めた徹底した社内調査で発見するほうがよほど会社のためになると思います。

そのためには、ガバナンス・コード補充原則3-2②の当該条項を、きちんと遵守することが近道です。2021年3月期から、金商法監査にはKAMが導入されますが(2020年3月期から早期適用)、監査役等と会計監査人で(個社固有の)監査上のリスクを真剣に協議する機会が増えるわけですから、このあたりも整理をしておくべきではないかと。また、補充原則3-2②(とりわけⅳについて)きちんと対応体制を確立しておられる上場企業さんがいらっしゃいましたら、どの程度確立されているのかご教示いただければ幸いです。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。